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2021 Fiscal Year Annual Research Report

19世紀仏・英を中心とする初期写真史の再構築:芸術性とマネジメントの相関から

Research Project

Project/Area Number 21J12431
Research InstitutionThe University of Tokyo

Principal Investigator

鈴木 実香子  東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)

Project Period (FY) 2021-04-28 – 2023-03-31
Keywords写真史 / 写真論 / 初期写真 / 芸術写真 / 19世紀フランス / 19世紀イギリス / ギュスターヴ・ル・グレ
Outline of Annual Research Achievements

本研究では、19世紀フランスおよびイギリスで芸術としての写真制作を試みた制作家に焦点を当て、初期写真家像の形成過程を分析する。その目的は、写真というメディウムの概念が形成途上だった当時、写真制作の担い手に対するイメージが、各制作家の活動と、写真の国際的な流通と受容の過程でいかに構築されたかを明らかにすることにある。
初年度である今年度は、19世紀中期フランスの写真家、ギュスターヴ・ル・グレ(Gustave Le Gray, 1820-1884)に注目した。特に、1850年代フランス・イギリスにおける、彼の写真の展示・流通・受容に関する資料調査を進めた。この調査の過程で、写真家の代表作とみなされてきた、海景写真の連作の着想源を再構成する必要性を見定めた。合成写真の先駆けといえるネガの組み合わせによって、豊かな雲を湛えた空と海を鮮明に写したル・グレの海景写真は、当時彼だけがなしえた技術的・美学的独創として、高く評価されてきた。しかし、ル・グレは、写真館の経営破綻による負債を逃れ、1860年にアフリカに発ち、二度とフランスに戻らなかったことから、写真制作の商業的側面を軽視した写真家と見做されてきた。
そこで、ル・グレが海景の撮影を集中的に行った1850年代に焦点を当て、ル・グレが刊行した写真概論、フランス・イギリスの定期刊行物上の批評・記事・広告、そして美術行政における写真の位置付けと写真制度の形成を総合的に分析した。その結果、ル・グレの海景写真の着想は、彼の活動を一早く擁護した美術批評家フランシス・ヴェの示唆や、同時代の写真家や芸術家とのネットワークの中でもたらされたことを解明した。さらに、上述の資料調査から、イギリスにおけるル・グレの海景写真の展示・流通の状況を跡付けることで、ル・グレは海景写真の需要と収益性を見込んで、海景写真の連作を手がけた可能性が高いことが明らかになった。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

本研究で分析する主な写真資料およびテクスト資料は、フランスの図書館・美術館・文書館等の研究機関が所蔵している。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、海外での資料調査や印画・ネガの閲覧を、当初の計画通り遂行することは困難となることが予想された。そのため、今年度に予定していた、日本映像学会および日仏美術学会での研究発表はそれぞれ、採用前年度となる2020年9月の日本映像学会第46回大会、2020年10月の日仏美術学会第157回例会にて前倒しして行った。これらの発表を踏まえ、「研究実績の概要」に記載した通り、ギュスターヴ・ル・グレの海景写真の連作とその着想にかんする調査・研究を進めた。その研究成果は論文としてまとめ、現在学会誌に投稿中である。
なお、当初夏期長期休暇中に予定していた海外資料調査は中止せざるを得なくなったものの、2022年2月から、フランスのパリ第1大学パンテオン=ソルボンヌ校HiCSA(芸術文化史・社会史研究所)に、研究指導委託で客員研究員として滞在し、資料の収集・分析を進めている。またこの間、受入教員であるミシェル・ポワヴェール教授が主宰するゼミナール、またパリ国立高等美術学校のクリスチャン・ジョシュク教授の写真史の講義に積極的に参加することで、19世紀から今日に至るまでのヨーロッパを中心とする写真史、および現代フランスにおける写真制作のマネジメントにかんする新たな知見を得ることができた。
このように、当初の研究計画の変更を余儀なくされたものの、一定の研究成果の目処が立ち、論文執筆に進展が認められた。また研究指導委託でのフランス滞在によって、新たな資料群の探索を開始し、当初想定していた以上のテーマの広がりを得ることができた。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。

Strategy for Future Research Activity

2022年6月までパリに滞在する予定であるため、受入教員のポワヴェール教授の研究指導を受けながら、引き続き先行研究の整理と資料調査を進めていく。具体的には、受入教員との相談の結果、初年度に主に調査・分析を行っていた1850年代以前にかんしては、本研究に関連するテーマを論じている未刊行の博士論文の閲覧を開始した。また、今後新たに、1860年代以降の写真制度の形成を、経済面から分析していくにあたっては、Chambre syndicale de la photographieとその機関紙Journal de l'industrie photographiqueに着目した調査を予定している。さらに、ル・グレ以外の19世紀中期の重要な写真家であるシャルル・ネーグル、アンリ・ル・セック、ロジャー・フェントンらにかんしては、目下、フランス国立図書館版画写真部門、フランス写真協会、オルセー美術館所蔵の写真資料およびテクスト資料、一過性資料の調査を行っている。そしてル・グレを含むこれらの写真家にかんして、彼らの写真制作および流通のマネジメントの様相を明らかにするために、フランス国立公文書館にて公正証書の調査を行う予定である。

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Published: 2022-12-28  

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