2021 Fiscal Year Annual Research Report
消化管生理機能の小児特性解析に基づく薬物吸収動態予測とその小児製剤設計への応用
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21J12535
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
鈴木 悟 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 消化管吸収 / 生理学的薬物速度論 / モデリング&シミュレーション / 消化管生理機能 / 小児製剤 / 数理モデル / 消化管内水分 / 薬物動態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、消化管生理環境・機能、薬物動態制御因子および製剤が有する物理化学的影響を組み込んだ生理学的数理モデルを構築することにより、特殊製剤を含む小児製剤の薬物吸収動態予測を目指す。本年度は、消化管生理環境・機能と製剤学的特性に関するモデル化を試みた。消化管内水分量は、薬物吸収に顕著な影響をもたらすと推察されているにも関わらず、これまでその詳細な検討はほとんど行われてこなかった。そこでまず、消化管内水分動態モデルの構築を目指し、非吸収性化合物 (FD-4)および標識水 ([3H]water)を用いたin situ実験を行い、ラット消化管における水分吸収/分泌性パラメータを速度論的に推定した。得られたパラメータと消化管内水分に関する文献データを基に、ラット消化管内水分動態モデルを確立した。最終的に、構築した消化管内水分動態モデルを従来の薬物吸収動態モデルに組み込むことで、消化管内薬物/水分動態を統合解析できる新しい薬物吸収動態予測モデルを構築した。さらに、本モデルをヒトにスケールアップすることで、ヒト薬物吸収動態予測モデルにも適用可能であることが示された。さらに、本モデルの妥当性および有用性を示すことを目的に、薬物間相互作用を例に評価したところ、臨床試験データを良好に再現したことから、薬物間相互作用 (特に消化管代謝を介した相互作用)予測にも有用であることが示された。 一方、製剤学的特性が及ぼす薬物吸収への影響のモデル化を目的として、遅放性製剤化による薬物吸収動態変動が報告されているCYP3A基質薬物simvastatinを用い、生理学的数理モデルによる定量的解析を試みた。その結果、遅放性製剤では消化管上部での薬物放出が制限されており、simvastatinの遅放化に伴う血中濃度の上昇は、小腸上部で高発現するCYP3A4の回避に起因している可能性が推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、消化管生理環境・機能と製剤学的特性の精緻なモデル化を試みた。消化管生理環境・機能については、主に、消化管内における水分挙動のモデル化を目的として、動物試験により得られた水分動態パラメータに基づきラット消化管内水分動態モデルの確立を試みた。最終的に、構築した消化管内水分動態モデルを、従来の薬物吸収動態モデルに組み込むことで、消化管内薬物/水分動態を統合解析できる新しい薬物吸収動態予測モデルを構築した。さらに、本モデルをヒトにスケールアップすることで、ヒト薬物吸収動態予測モデルにも適用可能であることが示された。消化管内水分挙動解析の成果については、ヒトおよびラットのいずれのモデル構築も完了しており、既に学会報告も行った。現在、国際誌への論文投稿についても準備中である。一方、消化管内薬物/水分動態を統合解析可能な新規薬物吸収動態モデルの構築については、その妥当性と有用性に着目した学会報告を行ったものの、バリデーションについて一部完了に至っていないため、次年度も引き続き解析を行い、その後、学術論文として投稿する予定である。 また、本年度には、製剤学的特性が及ぼす薬物吸収への影響のモデル化にも着手することができ、生理学的数理モデルを用いた放出制御製剤化による吸収動態変動の定量的解析を行い、さらに最適な放出制御製剤の提案まで行えた。今後、本成果に関する学会報告を予定しており、動物試験による結果の再現性を確認した後、学術論文としての投稿も予定している。 以上より、本年度における研究の達成度は当初の計画通りであり、本研究課題を完遂するうえで順調に進行できている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、前年度で得られた消化管内水分挙動に関する知見を基盤として、消化管内水分量に及ぼす浸透圧の影響のモデル化を試みる。非吸収性化合物(FD-4)および標識水([3H]water)を用いたin situ実験により、各浸透圧に調製したmannitol溶液を用いて、ラット消化管各部位における見掛けの水分吸収/分泌挙動および真の水分吸収/分泌挙動を経時的に定量評価する。得られた結果に対して、消化管部位差を考慮して、経時的な浸透圧変動に依存した水分吸収/分泌挙動を記述する水分動態モデルを構築する。得られたモデルを前年度に確立した消化管内薬物/水分動態を統合解析可能なモデルに適用することで、浸透圧を考慮できる薬物吸収動態モデルを構築する。最終的に本モデルの予測の妥当性を、ラットおよびヒトにおける高張溶液投与時の血中薬物濃度および消化管内水分量の結果により検証する。 また、製剤の物理化学的特性が消化管生理機能に及ぼす影響を定量的に解析するために、主に製剤の粘度に着目しその数理モデル化を試みる。各粘度に調製した非吸収性化合物(FD-4)溶液をラットに経口投与し、各設定時間経過後、消化管を摘出し、消化管各部位のFD-4量を測定することで消化管移行速度を定量評価し速度論的解析を試みる。 以上、前年度から得られた知見を統合した数理モデルを用いて、代表的小児製剤であるシロップ剤に着目し、製剤設計の最適化とその方法論 (シミュレーション手法)を確立する。年齢差が報告されている消化管生理機能について文献情報を組み込むことで、成人から小児薬物吸収動態予測法を確立する。得られた結果に対して、ラットまたはヒトin vivo試験における結果と比較し、構築した生理学的薬物吸収動態モデルおよびシミュレーション手法の妥当性を検証する。
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Research Products
(4 results)