2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J12571
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柏倉 優一 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 古代中国史 / 先秦期 / 楚地域 / 出土資料 / 簡帛史料 / 統治制度 / 県制 / 地方行政 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は史料に対する基礎研究の精緻化と先秦期の統治制度研究の二つを主たる課題とし、研究を進めた。 史料研究の精緻化について。研究者が従来より分析を加えて来た包山楚簡文書簡の釈文・注釈を、最新の古文字学研究の成果を踏まえて修正・補強した上で、これを「包山文書簡訳注」(『中国出土資料研究』25号、2021年)として論文化した。 先秦期の統治制度研究について。本年度は、先秦期の県制の歴史的過程を「秦漢的郡県制への単線的な形成過程」とみなし、春秋期の県の中に秦漢期以降の県への変化の契機を見出そうとする従来の見解を批判し、研究の視野を「郡県制」から「領域支配」全般に広げ、春秋期において県は、それ以外の邑と区別される特殊な邑(ないし新たな支配制度)ではなく、「県」という呼称は単に邑の呼称のバリエーションの一つに過ぎなかったことを明らかにした土口史記氏の視角を批判的に継承し、この視角をより徹底化させて当時の統治制度全体の中で「県」や「邑」について分析を加えた。その結果、春秋期における「県」と「邑」の同質性を主張する土口氏の見解を再確認した上で、土口氏が戦国期以降の制度化された「県」への萌芽に位置付けた春秋後期晋の「県」の広域的・制度的な軍事編成化についても、それが楚など他国の「邑」においてもしばしば見え、決して秦漢的な県への変化の契機には位置づけられないこと、新たな領域支配制度としての「県」は商鞅変法期の秦において初めて出現したものであり、それ以前の統治制度の中にある萌芽的要素から変化したものではないこと、そしてそうした商鞅県制が各国に輸出もしくは模倣され、戦国中期に県制が急速に各国に広まっていったことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の達成のために必要な出土資料、伝世史料の収集と、その史料(特に出土資料)の読解に必要な古文字学等の研究書の収集・理解によって、史料の校訂及び史料研究を十分に行い、その成果の一部を「包山文書簡訳注」(『中国出土資料研究』25号、2021年)として論文化することができた。また、これに基づくことで、先秦期の統治制度研究に関する論文執筆においても一定の進展が見られた。よって、研究の進捗としては「おおむね順調に進展している」といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
新史料の公開や出版にも目を配りつつも、論文執筆に重点を移して研究を遂行する。 本年度、骨子を構築した先秦期の県制の歴史的展開に関する研究を論文として完成させ、その投稿を行う。同時に、この成果を踏まえて、春秋期の楚の県制に関する研究に新たに着手し、年度末までに形にすることを予定している。 また、新型コロナウイルスに関する情勢が緩和されていく可能性があるので、もし緩和されれば、中国に赴き、現地調査や現地の研究者との交流を行うことも検討している。
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Research Products
(1 results)