2021 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト表皮細胞の分化に気相培養が必須とされるメカニズムの解明
Project/Area Number |
21J12945
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
手島 裕文 名古屋大学, 創薬科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 表皮分化 / 細胞分化 / 気相培養 / 羊水 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト表皮は、最深部の幹細胞が分化増殖した細胞層であり、最外部に角層というバリアを形成する。表皮の分化過程は細胞培養で再現可能だが、細胞を空気に暴露する「空気暴露」という特異な操作を必須とする。一方羊水中で発育する胎児表皮は、空気暴露が無くとも正常に分化する。本研究では、この互いに矛盾する2つの事象に着目し、空気暴露による表皮分化メカニズムの解明および、羊水中の分化促進因子の同定を目指す。 空気暴露の有無により変動する遺伝子群をRNA-seqにより解析した結果、変動遺伝子の多くは低酸素応答に関与することを明らかにした。そのため低酸素応答の責任因子であるHIFに着目し、表皮分化過程に伴うHIFの活性を解析した。その結果、空気暴露を行わない場合において経時的に高いHIFの活性を確認した。続いて、HIFの活性と相関するタンパク質発現量の変動が生じていることを期待し、解析を行ったところ、大変興味深いことに逆相関するような結果を得た。HIFが表皮分化に対して持つ作用を検証するため、薬剤や遺伝子発現抑制技術を用いた。結果として、HIF自体は表皮分化に対して正の働きがあるものの、空気暴露の有無によって作用機構が全く異なることが示唆された。本メカニズムの解析を次なる課題とし、HIF相互作用タンパク質の解析と結合DNA配列の変化に着目した解析を計画している。 また、羊水中に存在する表皮分化促進因子の探索については、精製・分画したマウス羊水に分化促進能があることを見出し、その画分を質量分析に供する段階にまで至っている。しかし、具体的な因子の同定にまで至っていないため、組み換えタンパク質の作製と培養系への添加を実施し、表皮分化に対する効果を評価することにより具体的な因子の同定していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
経時的なサンプリング、ウェスタンブロッティングにより気相培養と液相培養を比較したところ、低酸素応答因子であるHIFの発現量が空気暴露の有無によって変化した。HIFは低酸素応答において中心的に働く転写因子である。これまでに行われた数多くの研究から低酸素環境下における作用メカニズムが明らかになっている。そのため、次に空気暴露の有無がHIFの活性にどのような影響を与えるか解析した。その結果興味深いことに、タンパク質の発現量と逆相関的な活性を示し、従来の作用モデルと異なるメカニズムで表皮分化に対して正の働きを持つことが示唆された。本結果をさらに検証するため、HIFの活性を制御する薬剤を用いた培養やHIFの遺伝子発現を抑制させた細胞を培養した。結果としてHIFが表皮分化に対して正に働くことが再確認された。以上のことから、空気暴露環境下においてはHIFがこれまで明らかにされている寄与モデルとは異なる形で作用し、表皮分化に対して促進的働くことが明らかとなった。現在本件について研究報告する準備を進めている。 また羊水中の表皮分化促進因子を精製する試みについてはまず、胎生段階の異なるマウス羊水のタンパク質発現パターンを電気泳動や質量分析を解析し、加えて表皮分化に対して促進的に働く酵素の活性が最も上昇する胎生日数を明らかにすることにより、精製の対象となる胎生日数の羊水を決定した。その羊水を回収し、陰イオン交換などの各種クロマトグラフィーを実施し、精製後の画分を培養系に添加することにより表皮分化活性を評価した。その結果、分化を促進する画分が存在することを明らかにし、質量分析に供した。本結果について論文を発表した。現在、質量分析により得られた候補因子群の中から表皮分化促進因子の特定することを試みており、その作用を検証している段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
HIFが従来の作用モデルと異なる作用メカニズムで空気暴露依存的な表皮分化に寄与することをさらに検証する。そのために、HIFのDNA結合配列と相互作用因子に着目した解析を行う。これまでの解析から、遺伝子導入や薬剤によるHIFの誘導は空気暴露によって生じる現象を妨げてしまうため、内在性のHIFを捉えることに試みる。しかし、内在性の転写因子を精製する効率は抗体に大きく依存し、一般的に難しいとされる。そこで、遺伝子ノックイン技術により表皮細胞株の内在性HIFにHAタグ等のタグ配列を挿入し、抗体によるHIFの精製感度を高めた細胞を作製し、ChIP-sequencingを実施する。またタグ導入時に、HAタグだけでなく、ビオチンとアフィニティーがあるStrepタグを同時に導入することにより、抗体を用いることなくHIFおよび、その相互作用因子を精製することが可能となる。そのためHAタグと同時にStrepタグについても同時に導入することを試みる。Strepタグを導入した細胞樹立後は、ビオチンを用いたアフィニティー精製と質量分析により相互作用因子の同定に試みる。得られた相互作用因子候補群の中から実際に相互作用している因子を絞り込む際には、HIFの立体構造やタンパク質の進化的な背景に着目し、相互作用する可能性がある因子を精査する。 羊水からの表皮分化促進因子の精製についてはマウス羊水を用いてきたが、量的な問題からヤギの羊水を用いた精製を新たに開始する。現在までに、マウス羊水については表皮分化促進因子候補タンパク質群の精製・同定に至っているため、得られている候補因子群の中から、実際に機能を持つタンパク質の同定を目指すと同時に、ヤギ羊水から獲得できる候補因子群と比較検討を試みる。
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