2021 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of the mechanism by which tRNA thiolation enzymes with iron-sulfur clusters regulate two different reactions
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21J12999
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石坂 優人 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 運搬リボ核酸(tRNA) / 鉄硫黄クラスター / tRNA硫黄修飾 / 2-チオウリジン合成酵素 / 構造生物学 / 生物物理学 / 酸化還元生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
tRNAが蛋白質合成を担うためには硫黄修飾などの成熟化が必要であり、その破綻はガン・ミトコンドリア病などにも関与する。しかし、tRNA硫黄修飾を担う酵素は空気中で容易に酸化崩壊する因子「鉄硫黄クラスター」を持つため、tRNA硫黄修飾の反応機構は不明だった。そこで本研究では無酸素環境下で酸化還元を制御し、2-チオウリジン合成酵素TtuAに結合した鉄硫黄クラスター構造とTtuAの酵素活性を経時的に相関解析した。その結果、活性型TtuAは[4Fe-4S]鉄硫黄クラスターのみ持つことを明らかにした。 我々は以前、[4Fe-4S]-TtuAと硫黄ドナー蛋白質TtuBとの複合体構造を報告した。興味深いことに、TtuAと結合している[4Fe-4S]のユニーク鉄(TtuAと結合していない露出した鉄)がTtuBの硫黄と結合していた。しかし、大腸菌で大量発現したTtuAに対し、試験管内で過剰な鉄と硫黄を加えて[4Fe-4S]を再構成したため、TtuAが[3Fe-4S]を使う可能性も残っていた。そこで我々は無酸素環境で酸化還元を厳密に制御した上で、電子スピン共鳴(EPR)で鉄硫黄クラスターの構造をタイムコースで解析し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で[3Fe-4S]-TtuAおよび[4Fe-4S]-TtuAの酵素活性を解析した。 我々はTtuAの重要残基がtRNA硫黄修飾酵素一般で保存されていることも明らかにし、TtuAもNcs6も[4Fe-4S]を用いてtRNA硫黄修飾を触媒することを示唆した。すなわち、酸化還元を厳密に制御し、鉄硫黄クラスターの構造と酵素活性を経時的に解析しなければ、鉄硫黄クラスターを持つ酵素一般で、誤った反応機構が提唱されてしまう危険性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は以前、過剰な鉄と硫黄を加えて[4Fe-4S]を再構成し、決定した[4Fe-4S]-TtuA-TtuB複合体の構造に基づき、TtuAはTtuBから硫黄を受け取ることを明らかにした(M. Chen, et. al., PNAS, 2017; M. Chen, M. Ishizaka, et. al., Commun. Biol., 2020)。しかし、ヒトを含めた真核生物でTtuAに相当するtRNA硫黄修飾酵素Ncs6では、[4Fe-4S]を利用するという報告とユニーク鉄を失った[3Fe-4S]を利用するという報告の両方があった。すなわち、「よく似たtRNA硫黄修飾酵素に、異なる鉄硫黄クラスターが使われるのは本当か?」という生物学的な問いがあった。 EPRを利用した鉄硫黄クラスターの構造解析では、酸化還元条件を検討し、[3Fe-4S]が数十分間で自発的に[4Fe-4S]に変化することを発見した。次に、不安定な[3Fe-4S]-TtuAの酵素活性を調べるために、TtuA濃度・TtuB濃度・反応時間・反応温度を検討し、短い反応時間でTtuAの酵素活性を測定できる条件を見出した。HPLCを利用してTtuAの生成物を定量し、[3Fe-4S]-TtuAには酵素活性がないことを証明した。 本成果は活性化TtuAが[4Fe-4S]型か[3Fe-4S]型かを明らかにしただけでなく、Ncs6を含むtRNA硫黄修飾酵素は一般的に、[4Fe-4S]を利用してtRNA硫黄修飾を触媒することを提案した。また、鉄硫黄クラスターを持つ酵素一般において、酸化還元を厳密に制御し、鉄硫黄クラスターの構造と酵素活性の相関をタイムコースで解析しなければ、誤った反応機構の結論を導いてしまうという危険性を提唱した。 以上より、本研究は「おおむね順調に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に我々は、活性型TtuAは[4Fe-4S]のみを利用することを明らかにし、鉄硫黄クラスターを利用するtRNA硫黄修飾酵素は一般的に[4Fe-4S]を用いることを提唱し、大きな成果が得られた。一方で、TtuAがtRNAとどのように相互作用し、tRNA活性化を触媒するのかは明らかでない。また、TtuAがtRNA活性化とTtuBからtRNAへの硫黄転移という異なる2つの反応を制御する分子機構も不明である。 そこで我々は、[4Fe-4S]-TtuAとtRNA全長の複合体を用いた結晶化を試み、両者の相互作用が弱いことを明らかにした。現在は、tRNA54位に5-メチルウリジン修飾を含むtRNAフラグメントを設計し、化学合成されたtRNAフラグメントを用いて、[4Fe-4S]-TtuAとの共結晶化を試みている。 2022年度も引き続き、TtuA濃度・沈殿剤濃度・バッファーのpHなどを最適化し、良質な[4Fe-4S]-TtuA-tRNAフラグメント複合体の結晶を作製する。得られた結晶は、大型放射光施設SPring-8やPhoton FactoryにおけるX線回折実験に利用し、構造解析を行う。さらに、得られた構造に基づいてtRNA活性化を担うTtuAの重要残基を予測し、変異体を作製してHPLCで酵素活性を解析する。これらの結果をまとめて、TtuAによるtRNA硫黄修飾の反応機構を解明し、世界に先駆けて鉄硫黄クラスターを用いたtRNA硫黄修飾酵素の一般的な反応機構を議論する。
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