2021 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation for diversity among hydrous asteroids based on mineral and organic composition and reflectance spectral properties of carbonaceous chondrites
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21J13337
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
天野 香菜 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | C型小惑星 / 炭素質隕石 / 反射分光スペクトル / 含水鉱物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、C型・D型(含水)小惑星ならびにそれら天体から地球に飛来したとされる炭素質隕石の反射スペクトル特性において、天体・隕石のどのような要因(構成物質、表面状態など)が支配的であるかを明らかにすることを目標としている。複数の炭素質隕石の試料岩片を用いて可視・近赤外・中間赤外波長域の反射スペクトル測定を行い、X線回折法(XRD)によって同定された各隕石試料の鉱物組成、各隕石試料に含まれる不溶性有機物の反射スペクトル、地球で採取された鉱物単体の反射スペクトルなどの先行研究結果と比較を行った。その結果、隕石試料の反射スペクトルは隕石試料の主要構成鉱物以外の相や原因によっても特に可視・近赤外波長域の反射スペクトルの形状(特に明るさ、スペクトル傾き)が大きく変化し得ることを確認した。 また、C型小惑星リュウグウから探査機はやぶさ2が回収した試料のうち複数の粒子・粉体試料の反射スペクトル測定を実施した。回収試料を大気に触れさせることなく分析し、地球環境における酸化や水の吸着などの影響を受けていない小惑星物質の反射スペクトルを実験室で取得することができた。はやぶさ2回収試料と炭素質隕石試料の反射スペクトルを比較したところ、はやぶさ2回収試料とよく似た赤外反射スペクトルを示す炭素質隕石は確認されたものの、可視~赤外波長域にかけて反射スペクトルの特徴が完全に一致する炭素質隕石は確認されなかった。これらの原因の一つとしてこれまでに地上で分析されてきた炭素質隕石の反射スペクトルにおいて地球上での風化の影響が大きいことが挙げられ、隕石の反射スペクトルと小惑星の反射スペクトルを比較する際に、隕石の地球上での風化を考慮に入れる必要があるということが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画段階では、本年度は主として炭素質隕石の組成を変質させる実験について手法を確立させることを予定していた。当初の見込み通り、酸素プラズマ発生装置を用いた実験的処理によって炭素質隕石の含水鉱物を分解させない低い温度で試料表面の有機物を除去することができた。一方で、装置内の化学残渣による他の元素の混入をはじめとした試料の表面有機物除去以外の反応が起こっていることが確認された。これらのどの反応が試料の反射スペクトルにどのように寄与しているかを調べる必要があり、想定よりも手法の検討に時間がかかってしまった。 一方で、探査機はやぶさ2によるC型(含水)小惑星回収試料の反射分光分析については、想定よりも多数の粒子・粉体試料やその分析のための時間を確保することができ、地球大気による酸化・水の吸着などの影響を受けていない小惑星物質の反射スペクトルを取得することができた。はやぶさ2回収試料の鉱物・有機物組成が反射スペクトル特性に対してどのように寄与しているかを調べることは、本研究の当初の目的である含水小惑星の反射スペクトル特性がどのような構成物質・表面状態によって支配されているかの理解のための有効な一手である。現段階ではやぶさ2回収試料の可視・近赤外・中間赤外反射スペクトル測定は複数の試料や測定条件で行えており、一部試料については紫外波長域の反射スペクトルも取得できているため、研究はおおむね順調に進展しているといえる。今後ははやぶさ2回収試料や回収試料に似た反射スペクトルを示す炭素質隕石の鉱物・有機化学組成に注目したさらなる分析を行い、はやぶさ2回収試料の反射スペクトル特性の解釈を深めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、はやぶさ2回収試料の反射スペクトル測定を鉱物学的・有機化学的分析を進める予定である。試料中の不溶性有機物の特性についてグルノーブル・アルプ大学にて試料からの不溶性有機物の抽出と抽出試料の赤外透過・反射分光分析などを行い、試料全岩と不溶性有機物のみの赤外分光スペクトルの比較によって分光スペクトルにおける不溶性有機物の寄与の評価を行う。また、炭素質隕石とはやぶさ2試料の不溶性有機物組成の比較も併せて行い、はやぶさ2回収試料と炭素質隕石の違いについても議論する。また、回収試料中で反射スペクトル特性がどのような空間分布を持っているかについても東北大学などの赤外分光顕微鏡によって明らかにする予定である。これらの分析結果を総合的に考察し、はやぶさ2回収試料やそのほか炭素質隕石の反射スペクトルと試料の鉱物・有機物組成がどのように関連しているかについて検討し、当初の目的であるC型・D型(含水)小惑星の反射スペクトル特性がどのような構成物質・表面状態に強く影響されているかについての理解を深めたいと考えている。
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