2021 Fiscal Year Annual Research Report
17-18世紀イギリスにおける新教徒難民の仏語・英語使用の歴史社会言語学的研究
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21J13482
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中川 亮 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 手紙 / 歴史社会言語学 / フランス語史 / 英語史 / プロテスタント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、17世紀後半にフランスからロンドンへ逃れたプロテスタント難民の英語・フランス語に見られる言語的特徴を明らかにすることである。コーパスとしては、ルーアン出身の商人Caillouel家の手紙資料を主に用いる。 本年度は、(1)Caillouel家に関連する資料の収集、(2)コーパスとなる手紙資料の転写、(3)コーパスにみられる定型的表現の分析を行った。 (1)では、「グレート・ブリテンとアイルランドのユグノー協会」附属Huguenot Library、英国立公文書館、London Metropolitan Archivesで調査を実施し、Caillouel家が言及されている資料を十分に収集することができた。これにより、同家の言語使用を分析にするさい、彼らの来歴や交友関係を加味することが可能となった。 (2)では、Huguenot Library所蔵のCaillouel家フランス語書簡と、すでに収集済みであったDorset History Centre所蔵の英語書簡の転写を完了した。 (3)では、資料に見られる定型的表現を、同時期の知識人や第一次大戦期の兵士によるフランス語書簡にみられる表現、および近代の英語・オランダ語の手紙に関する研究成果と比較し、Caillouel家のフランス語書簡の特徴を抽出した。商人であった彼らの手紙では、貴族・学者・聖職者と共通する表現も用いられるが、複雑な統語や修辞はあまり認められなかった。また近代においては、類似した定型的表現が汎ヨーロッパ的にみられることが知られているが、Caillouel家の資料を詳しく検討すると、同じ商人であっても、たとえばオランダの商人とは異なる表現を用いていることが明らかになった。以上の観察により、Caillouel家の人々が手紙の書き方に関して持っていた規範意識について明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた資料収集・転写を完了し、具体的な言語使用の分析を実施できている。また、プロテスタント難民の言語使用を解明するさいに有効であると考えられる調査項目(手紙の定型表現、時制、綴り・句読法)を決定することができた。時制と綴り・句読法については次年度に重点的に研究を進める。さらに、フランスのUniversite Sorbonne NouvelleとSorbonne Universiteに滞在して研究を実施することができ、その過程で現地の専門家たちから非常に有益なアドバイスを得ることができた。英国での調査時には、ユグノー協会の司書からも助言を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)Caillouel家の英語書簡に見られる定型表現、(2)Caillouel家の英語・フランス語書簡に見られる過去と未来の表現、(3)同家資料に見られる綴りや句読法の特徴、について分析する。これにより、Caillouel家の英語・フランス語が有する英語史・フランス語史上の意義について、ジャンル・文法・メディアという三つの異なるレベルからアプローチする。2022年度も2021年度と同様に、フランスのフランス語史・フランス語学の専門家と議論しつつ研究を進める。
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