2021 Fiscal Year Annual Research Report
ラセン構造制御に基づくテーラーメイド型力学応答材料の創製
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21J13565
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
野崎 真衣 金沢大学, 新学術創成研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | ポリアセチレン / ラセン高分子 / メカノフォア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体(PDPA)のラセン構造と色の関係を詳細に調査した。 これまでに、側鎖にカルボキシ基を有するラセン構造を記憶として保持したPDPAの側鎖に、光学活性アミンをアミド結合を介して導入したPDPAが、導入するアミンのキラリティによって異なる溶液色を示すことを見出していた。例えば、左巻きラセン構造を有するPDPAの側鎖に1-フェニルエチルアミン(PEA)を導入した場合は、特定の溶媒中でS体のPEAでは黄色、R体のPEAでは赤色を示した。しかし、PDPAがこのように異なる溶液色を示すメカニズムの詳細については明らかになっていなかった。 そこで、様々な分光学的測定による解析を行ったところ、黄色よりも赤色の方が側鎖アミド基間で強く分子内水素結合を形成していることが示唆された。これらの実験結果と分子力学計算の結果から、主鎖のラセン構造が、側鎖アミド基間の水素結合のON/OFFによって、収縮したシス-シソイド構造(赤色)と伸長したシス-トランソイド構造(黄色)間の変化を起こし、バネのように伸縮することによって色が変化することを突き止めることに成功した。 さらに、側鎖に光学活性なPEAを導入したPDPAを、極性溶媒であるジメチルアセトアミド中で加熱すると溶液色は黄色を示すのに対し、非極性溶媒であるテトラクロロエタン中で加熱すると主鎖領域の吸収が大きく短波長側にシフトし、溶液色が無色透明になることを見出した。また、その溶液に紫外光を照射すると、黄色溶液は緑色発光を示すのに対して透明溶液は青色発光を示し、蛍光発光も大きく変化した。 以上のように、側鎖にアミド結合を有するPDPAが溶媒や温度などの外部刺激に応答して、色や蛍光特性の異なる複数のラセン構造へと変化することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PDPAの高次構造制御に基づく色変化をメカノフォアとして利用するためには、PDPAの構造と色の関係を明らかにする必要がある。 本年度は、様々な分光学的測定法を用いて、側鎖にS体またはR体の光学活性アミンを導入したPDPAが、側鎖アミド基間の分子内水素結合様式を変化させ、伸長した構造に基づく黄色溶液と収縮した構造に基づく赤色溶液を示すことを明らかにした。また、側鎖にアミド結合を有するPDPAをテトラクロロエタンなどのハロゲン系の溶媒中で加熱すると、従来のPDPAとは異なり、300 nm以上の波長領域に殆ど吸収を持たない無色透明溶液になることを見出した。さらに、この無色ポリマーをジメチルアセトアミドなどの高極性溶媒に溶解して加熱すると、従来のPDPAと同様の吸収スペクトルを示す黄色溶液へと変化し、透明-黄色の変化が加熱溶媒を変えることによって可逆的に起こることを明らかにした。以上の結果は、PDPAが溶媒・温度等の外部刺激に応答して、異なる色を示す複数のラセン構造へと変化することを示唆している。現段階では、応力と色の関係については明らかにはできていないが、今後はこれまでに得られた知見を踏まえ、色変化を示すPDPAを用いたメカノフォア材料の開発を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に新たに見出された透明溶液状態のPDPAのラセン構造の詳細を明らかにするとともに、それらのラセン構造変化に基づく色や蛍光特性の変化を利用した新たな力学応答システムの開発を目指す。 まず、透明状態のPDPAについて、NMR、IR、XRDなどの様々な分光学的測定による解析を行う。また、実験結果をもとに、分子力学計算・分子動力学計算を行い、透明状態のPDPAの構造を明らかにする。 次に、PDPAを汎用高分子と組み合わせる方法を検討する。具体的には、共有結合を介した汎用高分子鎖(ビニルポリマー、ポリウレタン、ポリエステル等)への導入、及び架橋によるゲル化(ポリエチレングリコール、ポリペプチド等)を検討し、適切な汎用高分子を選定する。さらにラセン高分子の導入量を最適化し、分子構造と力学特性の相関を明らかにする。 上記の検討結果を踏まえて、PDPAを利用したメカノフォア材料の機能の発現を目指す。具体的には、PDPAの分子認識能を活用して、ゲル状態でもラセン高分子がキラル物質を認識し、力学に応答して起こるラセン構造変化由来の不斉吸着特性を示すかどうかを調べる。また、一方向巻きのラセン構造を有するPDPAは円偏光発光特性を示すが、外部刺激により高次構造を可逆的に変化させることで、円偏光発光のON/OFF制御や蛍光色のスイッチングが可能かどうかを詳細に検討する。
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Research Products
(5 results)