2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J13633
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
閻 志翔 東京藝術大学, 美術研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
Keywords | 鑑真 / 敦煌莫高窟第323窟 / 大安寺十一面観音立像 / 唐招提寺盧舎那仏坐像 / 戒律と仏像 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究計画に基づきながら、鑑真渡来をめぐる彫刻史の研究を順調に進めていた。特に唐代戒律思想が奈良時代後期彫刻に与えた思想的影響に関する研究に取り込んでいた。そのうち、『唐大和上東征伝』に記される鑑真将来の「瑞像」彫刻を検討するための前提研究として、唐代の敦煌莫高窟第323窟の図像構成を検討した。第323窟と戒律思想の深い関係性が早くから指摘されたのみならず、瑞像を主尊とする石窟の中で、窟内の図像構成が解明できる稀な例であり、唐代戒律の実践における瑞像のはたらきを端的に示す唯一の作例といえる。この研究を通して、「瑞像」彫刻の将来と鑑真が伝えた菩薩戒思想との間に密接な関係性があると考えられる。研究成果の一部をまとめた論文は2022年3月末に出版された『仏教芸術』第8号(仏教芸術学会編集)に掲載された。また、年度末に鑑真が創建した唐招提寺の金堂に安置されている、菩薩戒経『梵網経』の教主である盧舎那仏像の造立意図に関する新たな研究も論文にまとめた。同論文はすでに投稿済みである。 一方、細部形式や様式を論拠とする造形論の研究に関しては、奈良・大安寺に伝わる奈良時代後期木彫群のうち、これまでに詳しく検討されてこなかった本堂安置の十一面観音立像を、鑑真にもたらされた唐風の受容という視点から、その彫刻的位置を再考した。その成果をまとめた論文を『美術史』(美術史学会編集)に投稿したが、査読において問題点を指摘され、掲載には至らなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
唐代戒律思想が奈良時代後期彫刻に与えた思想的影響に関する研究は順調に進んでいる。研究成果を次々と論文にまとめた。そしてすでに掲載された成果もある。しかし、本年度は論文執筆に追われるあまり、国内外における実地の調査と研究が進まなかった点に課題を残した。コロナ情勢の改善に伴い、作品の実地調査を実施するとともに、彫刻自体に即した造形論の研究をさらに進めていくことが望まれる。
|
Strategy for Future Research Activity |
掲載には至らなかった論文について、査読において指摘された問題点を改善し、論文の再投稿を行う。一方、国内外における作品の実地調査を積極的に進め、鑑真渡来に齎された新たな造形表現の特質及び日本におけるその受容の様相を再検討することに努める。なお、鑑真が伝えた戒律思想が奈良時代後期の仏教彫刻に与えた思想的影響に関する研究については、東大寺戒壇院に伝わる仏像を中心に、新たな研究課題を始める。
|