2021 Fiscal Year Annual Research Report
働く人の主体的な切り替えを支援するICTプログラムの開発:反芻の防止に着目して
Project/Area Number |
21J13786
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内村 慶士 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
Keywords | ワーク・ライフ・バランス / 仕事切り替え困難 / セルフモニタリング / 情報通信技術(ICT) / ランダム化比較試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
■「自分ケア意識」の有効性の検証 仕事と生活の切り替えにおいて、心身の状態に目を向け、自分を労わる意識を持つことが有効に機能するという仮説を立てた。文献レビューを行い、このような意識を、日本人の文化的心性に即した「自分ケア意識」として概念化した。仮説の検証に先立ち、「自分ケア意識」を測定する項目を作成し、標準化を行った。それを元に、会社員451名を対象に質問紙調査を行った。その結果、性別によって、仕事と生活の切り替えにおける「自分ケア意識」の機能が異なることが明らかとなった。女性においては、「自分ケア意識」と、仕事と生活の切り替えの間に直接的な関係が見られたのに対し、男性においては、仕事の負荷が高い場合に、「自分ケア意識」と切り替えの間に関連が見られることが明らかとなった。 ■「自分ケア意識」を促進するセルフモニタリングシステムの開発とプロトタイプ版の検証 「自分ケア意識」を促進する手法として、自身の心身の状態の視覚化を行う「セルフモニタリング」の手法を基盤とした介入プログラムの開発が有効と考えた。均質な支援を広く受けられるようにするため、情報通信技術を活用した。自分に対してケアの意識を向けづらい日本人の文化的心性に配慮し、「睡眠→体調→気持ちの休息…」と答えやすいテーマからセルフモニタリングを行う形とした。テーマは、1週間に1度短いアンケートとして配信され、平均と比べた自分のスコアや回答に応じたアドバイスがフィードバックされるシステムとした。 開発したプログラムを、会社員212名を対象にランダム化比較試験を行った。3ヶ月間の使用の結果、部分的な効果は見られたものの、男性と女性で一貫する効果は見られなかった。自由記述に基づく定性的な評価から「コンセプトの不明瞭さ」、「日常生活への落とし込みの乏しさ」などの課題が明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究の目標は、仕事と生活の切り替えの支援に向けて、それに有効な要因を探索する基礎的研究を行うこと、およびそれを情報通信技術を活用した心理支援プログラムとして実装することであった。現在までの進捗状況を考えると、概ねその目標が達成できていると考えられるが、基礎研究については研究上の限界があり、開発したプログラムも支援効果が不十分となっているため、研究成果を発展させる余地が残っている。また、得られた研究成果について、学術雑誌への投稿を準備している段階となっている。
■ 基礎研究における限界と次年度の展望 基礎研究として、仕事と生活の切り替えに有効な要因を探索するため、本年度は横断的なデザインによる質問紙調査を行なった。その結果、性別によって、「自分ケア意識」の機能が異なる可能性があるという新規性のある研究知見が得られたものの、交絡変数の考慮や因果関係の同定まではできていない状況である。次年度では、本年度の横断的調査により支持された仮説を、関連が想定される変数を加えた縦断的調査として、追加検証していく必要がある。 ■ 心理支援プログラムの限界と次年度の展望 心理支援プログラムについて、情報通信技術を活用し実際にプログラムとして運用可能な状態にまで開発を進めることができた。ランダム化比較試験の結果、脱落率の低さや、自分の状態に対する振り返りとなったことが自由記述から多く支持されるなど、一定の支援効果が見られた。しかし、量的なデータによる有効性は確認されなかったため、全体として改良が必要であるという結果となった。現在までに、自由記述による質的なデータを踏まえ、プログラムの改善を行っているものの、新しいプログラムの効果検証はできていない状況である。次年度では、改善したプログラムについて、その効果と限界を再度確認していく必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、【現在までの進捗状況】に記載したように、基礎研究を発展させ、改善したプログラムの追加検証を行っていきたいと考えている。
■ 基礎研究の発展 仕事と生活の切り替えと「自分ケア意識」の関連について、縦断的なデザインによる質問紙調査を行う。性別による結果の違いが見られたことから、生活状況(婚姻・子供の有無など)や仕事のステータス(役職・勤務形態など)を変数として収集することを予定している。縦断的調査により、「自分ケア意識」が、仕事と生活の切り替えに及ぼす影響について、因果的関係を検証したいと考えている。 ■ 心理支援プログラムの検証と開発 本年度開発したプログラムを改善したものを再度ランダム化比較試験により、効果の検証を行う。量的な効果の指標として、「自分ケア意識」の向上、および仕事と生活の切り替えの難しさ、すなわち「仕事切り替え困難」の低減を評価する。また、当初想定していたように、ウェアラブルデバイスの応用可能性についても検討する。本年度開発したプログラムは、「自分ケア意識」を漸進的に身につけるセルフモニタリングシステムとなっている。ウェアラブルデバイスを用いて、身体的状態、もしくはそこから推測される精神的状態を自動で測定し、記録することで、より回答者の負担を軽減できることが考えられる。今後の研究では、開発した心理支援プログラムを基盤としながら、ウェアラブルデバイスがどのように活用できるかを、まずは少人数で試験的に実施し、その体験を明らかにしたいと考えている。
|