2021 Fiscal Year Annual Research Report
多波長観測と輻射輸送計算で確立する活動銀河核の新たな統一描像
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21J13894
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小川 翔司 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 超巨大ブラックホール / 活動銀河核 / X線天文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、活動銀河核のトーラス領域における動的な構造を説明する理論モデルである輻射駆動噴水モデルに対して輻射輸送計算を実行し、実際のX線観測結果と比較した。またその成果を論文化し、複数の研究会で発表した。 活動銀河核の軟X線スペクトル上のWarm Absorberと呼ばれる吸収構造の物理起源を検証するために、光電離計算コードCloudyを用いた3次元輻射輸送計算によって、輻射駆動噴水モデルの電離度やX線スペクトルをシミュレーションした。その結果を近傍の狭輝線セイファート1型銀河であるNGC 4051のXMM-Newtonによる高エネルギー分解能観測と比較したところ、数百km/sの比較的低速度な成分によるWarm Absorberの観測的特徴を、このモデルによって説明できることがわかった。一方でNGC 4051の観測スペクトルを完全に再現するためには、現状の輻射駆動噴水モデルに含まれていない数千km/sの成分による吸収や幅の広い輝線が必要であった。このことはトーラスよりも内側の領域で放出されたアウトフローがWarm Absorberの一部に寄与していることを示唆しており、未解決であるWarm Absorberの物理起源の解明につながる結果である。本成果はOgawa et al. 2022, ApJ, 925, 55として査読誌Astrophysical Journalで出版し、複数の研究会で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、輻射駆動噴水モデルに対して輻射輸送計算を実行し、実際のX線観測結果と比較した。その結果、観測スペクトルを完全に再現するためには、現状のモデルには含まれていないトーラスよりも内側の領域で放出されたアウトフローが重要であることを示唆する結果が得られた。本成果はOgawa et al. 2022, ApJ, 925, 55として査読誌Astrophysical Journalで出版し、日本天文学会2022年春季年会、国際会議「East Asia AGN Workshop 2021」及び「Galaxy Evolution Workshop 2021」で発表した。 また輻射駆動噴水モデルの提唱者である鹿児島大学の和田桂一教授の理論グループと議論を進め、以上の研究に加えてもう一つの予定であった、アウトフローを考慮した赤外線スペクトルエネルギー分布モデル(SED)の作成にも取り組み始めている。 このように、当初の予定通りに研究を遂行しており、概ね順調であったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はアウトフローを考慮したSEDモデルを構築し、観測データに適用することで、トーラスの構造とその形成に最終的な決着をつけることを試みる。さらに個々の天体に対し、SMBHと母銀河の間の質量輸送機構について調査することで、共進化メカニズムの解明を目指す。 まず最先端の描像に添った現実的な赤外線SEDモデルを作成する。輻射駆動噴水モデルを参考にアウトフローを考慮してガスやダストを分布させたトイモデルを構築する。そして輻射輸送計算コードSKIRT(Baes et al. 2011;Camps & Baes 2015、2020)を用いて、トーラス、アウトフローの密度分布、観測者の見込角をパラメータとして赤外線SEDを計算し、テーブルモデルを作成する。さらに多波長SED解析コード「CIGALE 」(Yang et al. 2022)に実装することで多波長SED解析を行えるようにする。 次に作成したモデルを実際の天体に適用することでポーラーダストの物理量に制限を与える。サンプルには、Ogawa et al. 2021でX線スペクトル解析からトーラス構造を既に調べており、赤外線で高精度のデータが取られている28天体の近傍AGNを採用する。あらゆるAGN光度、SMBH質量 、質量降着率のAGNを対象にすることで、SMBHから母銀河までの物質の流れを系統的に調査し、近傍AGNの中心核構造や共進化メカニズムの統一描像を確立する。 最終的にこれらの成果を博士論文としてまとめ上げる。また、研究成果は各段階でまとめ、査読付き論文として投稿し、国際会議等で発表も行う。
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Research Products
(5 results)