2021 Fiscal Year Annual Research Report
自己免疫を抑制する胸腺髄質上皮細胞への分化を決定するマスター制御転写因子の同定
Project/Area Number |
21J14033
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀江 健太 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 自己免疫疾患 / 胸腺 / 髄質上皮細胞 / 組織特異的抗原 / 遺伝子発現 / 転写因子 / T細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
一次リンパ組織胸腺に存在する髄質上皮細胞(mTEC)は、自己免疫疾患を抑制するために、組織特異的タンパク質を異所的に発現する。これらの遺伝子は、主に転写調節因子AIRE (Autoimmune regulator) によって発現制御される。mTECは、遺伝子発現パターンの違いによってmTECI-IVの4種類に分類され、特にmTECIIでは、転写調節因子AIREと組織特異的遺伝子を高発現する。mTECIII及びmTECIVは、mTECIIから終末分化するが、AIREを発現しない。その一方で、組織特異的遺伝子の発現はmTECIII及びmTECIVにおいても維持されるが、その機構は不明である。 着目する転写因子Xについて、胸腺上皮細胞特異的欠損マウスを作製し、mTECI-IVを分取して遺伝子発現解析を行なった。その結果、転写因子Xの欠損により、mTECIII及びmTECIVにおいて、組織特異的遺伝子の発現量が有意に低下した。また、雌20週齢の胸腺上皮細胞特異的転写因子X欠損マウス血清に自己組織を認識する自己抗体が含まれているかを、マウス血清を1次抗体とした、Rag1欠損マウス由来の組織についての免疫染色によって評価した結果、腸管や脳など様々な臓器に対する自己抗体が存在することが判明した。一方、4週齢の転写因子X欠損マウスについて、mTECの割合及び細胞数を定量したところ、非欠損マウスと比較して顕著な変化は認められなかった。以上の結果から、転写因子Xは、mTECIII及びmTECIVにおいて組織特異的遺伝子の発現を誘導し、自己免疫を抑制する因子であることが示唆された。この研究は、mTECIII及びmTECIVにおいて組織特異的遺伝子を発現誘導する転写因子を初めて同定する研究となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
胸腺上皮細胞特異的転写因子X欠損マウスのmTECを解析した結果、当初の目的であった胸腺髄質上皮細胞の分化決定および性質維持機構の解明には至らなかった。しかしながら、転写因子XがmTECIII及びmTECIVにおいて組織特異的遺伝子を発現誘導することを見出し、自己免疫を抑制することを明らかにした。転写因子XのmTECにおける機能解明は、mTECIII及びmTECIVにおいて組織特異的遺伝子を発現誘導する転写因子を初めて同定するという新規性の高い発見となった。
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Strategy for Future Research Activity |
胸腺上皮細胞特異的転写因子X欠損マウスが末梢組織に対する自己抗体を保有することが判明したため、転写因子Xの欠損により惹起された自己免疫について、さらに詳細に評価する。欠損マウスの保有する自己抗体が認識する組織を網羅的に同定するために、欠損マウス由来の血清を1次抗体とした、様々な末梢組織の細胞ライゼート (Rag1欠損マウス由来) に対するウエスタンブロットを行い、自己抗体が認識する末梢組織タンパク質を検出する。また、末梢組織における炎症性細胞浸潤を評価するために、ヘマトキシリン・エオシン染色により末梢組織を組織学的に観察し、炎症性細胞の浸潤度と末梢組織の破壊度を定量的に評価する。また、末梢リンパ組織における活性化T細胞を定量する。 転写因子Xによる組織特異的遺伝子の発現誘導機構を、ATAC-seqを行うことでさらに詳細に解明する。
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