2021 Fiscal Year Annual Research Report
骨格筋の運命を決定するカルシウムイオン時空間パターンと細胞内機構の解明
Project/Area Number |
21J14283
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
田渕 絢香 電気通信大学, 情報理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | カルシウムイオン / 筋損傷 / 筋肥大 / バイオイメージング / 骨格筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,骨格筋細胞の損傷,再生,肥大といった適応を誘導するそれぞれに特異的な細胞内カルシウムイオン時空間パターンが存在するという仮説を検証することを目的としている. まず,伸張性収縮による筋損傷過程に着目しin vivoバイオイメージング技法細胞内カルシウム動態の観察を行った.その結果,伸張性収縮中のカルシウムイオン蓄積に引き続き,5時間後においてもカルシウムイオン濃度が高く,さらに部位局所的に蓄積していることが明らかになった.これは,筋損傷の形態的特徴が顕著となる24時間後に先行して生じていた.このカルシウムイオンパターンを形成している要素としてリアノジン受容体に着目したところ,リアノジン受容体を阻害すると5時間後におけるカルシウムイオンの蓄積および24時間後の筋損傷が抑制されることが示された.一方で,伸張性収縮中のカルシウムイオン流入経路である伸展活性化チャネルの阻害は,5時間後におけるカルシウムイオン動態に影響を与えなかった.以上の結果から,伸張性収縮中の伸展活性化チャネルを介したカルシウムイオン流入に引き続き,収縮後もリアノジン受容体からのカルシウムイオン漏出によるカルシウムイオン蓄積パターンが存在し,筋の損傷をもたらしていることが示された.この結果は,2021年9月で行われた体力医学会で発表を行い,2022年1月に国際学術誌へ掲載された. また,筋が著しい肥大を遂げる発育過程におけるカルシウムイオン動態の観察に試みた.身体の大きさも異なる3,6,12週齢のラットを対象に in vivoバイオイメージング技法によるカルシウムイオン動態観察技法を確立した.さらに生化学的手法から,週齢によって異なるカルシウムイオンハンドリング機構を形成している可能性を示す結果が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度は,Wistar系雄性ラットの前脛骨筋にカルシウムイオン蛍光指示薬 (Fura-2 AM) を導入し,筋損傷モデルおよび筋肥大モデルにおける細胞内カルシウムイオン動態の観察に取り組んだ.筋損傷モデルを対象とした実験では,損傷過程におけるカルシウム蓄積パターンが見られ,さらにそのパターンを生み出す要因として筋小胞体上のカルシウムイオン放出/漏出チャネルであるリアノジン受容体が関与していることが明らかとなった.これは,筋が損傷に向かっている過程で特異的に起きているカルシウムイオン動態であることが考えられる.筋肥大モデルとして,発育過程にある3,6週齢と成体である12週齢のラットを対象として実験を行った.安静時と薬理負荷によるカルシウムハンドリング阻害時のカルシウムイオン動態,ならびにウエスタンブロッティングによるタンパク質定量の結果から,発育過程初期の3週齢では成体と対照的なカルシウムイオン制御機構をもつことを示唆する結果が得られた. 以上の通り,筋の適応に対してそれぞれに特異的な細胞内カルシウムイオンパターンの観察に成功している.
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度では,筋の損傷に対して2つの観点から実験を行う.まず一つ目に,骨格筋が持つ優れた適応能力のひとつである再生に着目する.筋は損傷した後,再生過程へと移行する.筋の形成には筋小胞体上のリアノジン受容体による細胞内へのカルシウムイオン放出が必要であることが示唆されていることから,筋の再生に向けてリアノジン受容体が関与する細胞内カルシウムイオンパターンが存在することが考えられる.以上より,筋損傷後の再生過程に対するリアノジン受容体の阻害の影響をカルシウムイオン動態ならびに筋の形態から検証する.二つ目に,発育過程における筋の損傷に着目する.令和3年度の結果より発育期特徴的なカルシウムイオン制御機構の存在が示唆され,発育期では成体と比較して筋が損傷しにくいことが考えられる.このことから令和4年度では発育過程と成体のラットにおける伸張性収縮による細胞内カルシウムイオンパターンと筋損傷を検証し,発育過程特異的な細胞内カルシウムイオン制御機構による生理学的意義を検証する.
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