2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J14313
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千葉 侑哉 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
Keywords | 熱平衡化 / 孤立量子系 / 感受率 / 線形応答 / 量子スピン系 / 熱力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、孤立量子多体系の熱平衡化現象を、特に線形応答領域に着目して調査する。本年度は、理論の構築を行った。まず、熱平衡化したかどうかを判断する際、従来は全てのミクロ物理量を見る流儀と、有限個のマクロ物理量を見る流儀があった。これらの流儀を見直し、全てのマクロ物理量を見るという、熱力学と自然につながる設定を導入した。そのような設定の下で解析を行い、熱平衡化の条件として、従来の固有状態熱化仮説(ETH)とは異なる条件を得た。この条件には、ETHにはない以下の2つの特徴がある。(1)熱平衡化の十分条件であるだけでなく、必要条件にもなっていること。(2)全てのマクロ物理量で見て熱平衡化が起こるための条件であるにもかかわらず、たった1つのマクロ物理量に関する条件になっていること。すなわち、この条件が満たされるモデルでは、全てのマクロ物理量で見て、熱平衡化が起こることになり、逆に条件が満たされないモデルでは、あるマクロ物理量が熱平衡化しないことになる。このことを、具体的な非可積分系と可積分系のモデルを用いて、数値計算により実証した。 以上の結果の他に、熱力学に関する解析も行った。これまで、相転移が起こる系の解析は、熱力学関数に強い特異性が生じるため難しく、Clausius-Clapeyron関係式やGibbsの相律などの従来の結果は、限定的な相図を持つ熱力学系にしか適用できていなかった。今回、相転移が起こっても破綻しない形で解析を行い、熱力学系の相図に対して普遍的に成り立つ関係式を得た。これを使うことで、従来の結果が、一般の相図を持つ熱力学系へ拡張できることも分かった。さらに、その解析の際、通常の熱力学の公理からは示すことができないが、まっとうな物理系ならば持つと期待される性質も発見した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた、特定のマクロ物理量だけでなく、全てのマクロ物理量を見るようにするという拡張は、単純な一般化という以上に、本質的に重要であることが明らかになった。そして、熱平衡化の条件がよりシンプルな形で、たった一つのマクロ物理量だけで書けるという思いがけない成果をもたらした。 さらに、孤立量子系の熱平衡化の問題にとどまらず、熱力学自体についても調べ、相共存が起こるときにも普遍的に成り立つ関係式を得た。 以上の理由により、「(1) 当初の計画以上に進展している。」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた成果を論文にまとめる。また、熱平衡化の条件の解析の中で、時間スケールに応じて熱平衡化の有無が違い得るという振る舞いが見つかったので、これについても詳しく調べる。 さらに、熱力学に関する解析で発見された、まっとうなマクロ系なら持つと期待される新たな性質を、統計力学により正当化することも検討していきたい。
|