2021 Fiscal Year Annual Research Report
揮発性オキシリピン生成機構から紐解く担子菌の生存戦略
Project/Area Number |
21J14407
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
手嶋 琢 山口大学, 創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 1-Octen-3-ol / 10(S)-Hydroperoxide / Coprinopsis cinerea / Mushroom / Oxylipin |
Outline of Annual Research Achievements |
香りの放散は生物の生存戦略の一翼を担っており、菌類も様々な揮発性化合物を生成・放散することが知られている。しかしながら、菌類が香りを放散するがその生理・生態学的意義については不明な点が多い。本研究は、担子菌および子嚢菌に普遍的に存在する揮発性オキシリピンである1-octen-3-olの生合成経路の解明およびその生理・生態学的意義の解明を目的とした。本年度の成果として、モデル担子菌Coprinopsis cinerea(C. cinerea)から、1-octen-3-ol生合成候補遺伝子としてCcDOX1/2を見出した。遺伝子相同組換えにより作成したCcDOX1破壊株(ΔCcDOX1株)において、1-octen-3-ol生合成が完全に抑制された。また、昆虫細胞を用いて作成したリコンビナントCcDOX1は、提唱されている1-octen-3-olの生合成経路における中間生成物リノール酸10(S)ヒドロペルオキシド(10S-HPODE)を生成することが分かった。これは、CcDOX1が1-octen-3-ol生合成の一段階目の脂肪酸酸素添加酵素であることを示唆している。 C. cinerea菌糸体において凍結融解に伴う細胞破砕によって、1-octen-3-olの迅速な生成・放散が確認され、菌食者に対する直接防衛機能への関与が示唆された。そこで、ΔCcDOX1株と野生株を用いた菌食者に対するバイオアッセイを行った。菌食者であるナメクジ、キノコバエ、ショウジョウバエおよびセンチュウはΔCcDOX1株よりも野生株に対してより誘引されるか、またはより好む傾向が見られた。これはC.cinereaと菌食者の軍拡競争に伴う進化によって、これらの菌食者が食料探索の鍵因子として1-octen-3-olを利用していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までにC. cinereaにおいて、Aspergillus nidulansのリノール酸酸素添加酵素遺伝子AnPpoCと相同性のあるCcDOX1/2遺伝子を見出し、その機能解析を行った。そして、遺伝子相同組換えを用いて作出したΔCcDOX1株において1-octen-3-olの生成が抑制された。また昆虫細胞を用いて作出したリコンビナントCcDOX1は、リノール酸に効率的よく酸素添加し中間生成物10S-HPODEを特異的に生成する酵素であることが同定された。この成果は、担子菌1-octen-3-ol生合成経路の解明において大きな目的を達成したといえる。さらに、引き続く開裂反応を担う酵素については、野生株とΔCcDOX1株のミクロソーム画分における1-octen-3-ol生成能に差がないこと見出した。 ΔCcDOX1株と野生株を用いた菌食者に対するバイオアッセイを行った。その結果、菌食者はΔCcDOX1株よりも野生株に対してより誘引または好む傾向が見られ、1-octen-3-olを食料探索の鍵因子として利用していると示唆された。今後は、菌食者の天敵に対するバイオアッセイを行うことで更なる1-octen-3-olの生理生態学的意義の解明を行う。 以上のことから、本研究は当初の目的および実験計画に従っておおむね順調に遂行している。
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Strategy for Future Research Activity |
【1-Octen-3-ol生合成機構の解明】 CcDOX1がリノール酸から10S-HPODEを生成するジオキシゲナーゼとして1-octen-3-olの生成に必須であるが、二段階目の開裂反応は担っていないことがわかった。しかし、C. cinereaのゲノム上に、シアノバクテリアのカタラーゼ遺伝子や植物のヒドロペルオキシドリアーゼ遺伝子と類似の遺伝子が見出せなかった。現時点では、C. cinereaから調製したミクロソーム画分からカラムクロマトグラフィー技術を用いたヒドロペルオキシドリアーゼ様酵素の精製を試みている。また、紫外線照射により誘導した変異株プール作成により、これまでに1-octen-3-ol生成能抑制変異株を3株得た。得られた3株のゲノム配列決定を行うことで変異箇所を特定しつつある。今後、変異箇所に座乗する遺伝子を戻し1-octen-3-ol生成能の回復を見ることで、1-octen-3-ol生合成制御遺伝子を同定する。 【揮発性オキリピン生合成の生理生態学的意義の解明】 菌類1-octen-3-olの生理生態学的意義の解明には、更なるΔCcDOX1株を用いたバイオアッセイが必要である。今後は、1-octen-3-olが菌食者に対する捕食者や寄生者を積極的に誘因する間接防衛機能への関与を精査することで、三者間での相互作用について検討する。 得られた研究成果を速やかに取りまとめ、学術論分や学会発表等で報告する。
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