2021 Fiscal Year Annual Research Report
キラルスピンソリトン格子を用いたマイクロ波デバイスの機能開拓とダイナミクスの解明
Project/Area Number |
21J14431
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
島本 雄介 大阪府立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | キラル磁性 / 集団運動 / 強磁性共鳴 / Beyond 5G・6G / ミリ波 / スピントロニクス / マグノニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、キラル磁性結晶に固有に発現するキラルスピンソリトン格子(Chiral Soliton Lattice: CSL)の優れた構造制御性に着目し、CSLを用いたマイクロ波デバイス機能の実証およびその基礎物性の解明を研究目的にしている。 本年度は、スピン波分光法と呼ばれる電気的検出手法を用いて、CSLのダイナミクスを介したマイクロ波の伝搬特性を精査した。CrNb3S6微細試料の結晶らせん軸に対する異方的なマイクロ波伝搬特性を明らかにした。マイクロ波の伝搬方向がらせん軸と平行になる配置では、磁場強度に応じてマイクロ波の伝搬強度が大きくなる様子が観測された。試料中のらせんのひねり(ソリトン)の数を減らすことでマイクロ波伝搬が効率的になるため、この配置では、ソリトンはマイクロ波伝搬を阻害するものとして働く。一方、マイクロ波の伝搬方向がらせん軸と垂直になる配置では、ゼロ磁場近傍のキラルらせん磁気秩序 (Chiral Helimagnetic Order: CHM) 状態でのみ、伝搬強度が大きくなる様子が観測された。つまりこの配置では、非線形なCSLではなく線形なCHM状態がマイクロ波伝搬の良導体として振る舞うことを意味している。CSLやCHMに固有の異方的なマイクロ波伝搬を利用することで、マイクロ波の強度や周波数だけでなく、伝搬方向も制御できる可能性を示唆している。得られた研究成果は、米国物理学会Physical Review Bにすでに掲載されている。 また、CSLの並進対称性の破れに応じて生じるCSLフォノンと呼ばれる集団素励起を観測した。CSLフォノンの応答として期待される磁気共鳴の高次モードを16から40 GHzという広い周波数帯域で観測した。12月開催の国際学会Materials Research Meeting 2021で、得られた成果について口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1) CSLやCHMといったキラル磁気構造において、マイクロ波伝搬が異方的になることを明らかにした。具体的には、らせん軸に平行な方向にマイクロ波が伝搬する場合は、らせんのひねり部分はマイクロ波伝搬を阻害するものとして機能する。一方、らせん軸に垂直な方向にマイクロ波が伝搬する場合は、らせんのひねりの数が最も多いCHM状態がマイクロ波の良導体になる。これらの実験データは、磁気状態を制御することでマイクロ波の伝搬方向をスイッチできる可能性を示している。このようなマイクロ波伝送路としての機能を、従来の磁気システムで実現することは困難である。例えば、磁気ドメインの境界部分である磁壁を利用して、マイクロ波伝搬特性を制御しようとする研究は盛んに行われているが、弱磁場中では磁壁は確率的に生成されるため、一般的に磁壁の状態や数を制御することは困難である。本研究で得られた異方的なマイクロ波伝搬特性は、高い構造制御性を有するCSLに固有のものであり、次世代の省エネルギー情報処理デバイスに新たな知見を与えるであろう。得られた研究成果は、米国物理学会Physical Review Bにすでに掲載されており、本研究の目的である「CSLを用いたマイクロ波デバイス機能の実証」を達成している。 (2) CSLフォノンと呼ばれる集団素励起を実験的に観測した。CSLフォノンは2009年に理論予言されてからこれまで誰も観測することができなかったCSLに固有の振動モードであり、CSL運動の物理機構の解明という観点で重要な成果である。また、CSLフォノンによって生じるマイクロ波吸収現象は、従来の強磁性材料よりも高い周波数領域で起こり、さらに非常に広い周波数範囲で変調させることが可能である。このように、次世代通信システムの高周波エレクトロニクス磁性材料としてCSLが有用であることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、海外の研究機関でCSLダイナミクスの光検出実験を行う予定だったが、世界的なコロナウイルスの感染拡大により、実験計画を遂行することが困難になった。実験手法を変更し、次年度もCSLの高周波特性に関する研究を継続する。 CSLフォノンの観測により、次世代通信システムの高周波エレクトロニクス材料としてキラル磁性材料が有用であることが明らかになった。キラル磁性材料のデバイス応用に向けて、CSLフォノンの特性をさらに精査する。例えば、デバイス仕様の一つであるバンド幅を評価するために、CSLフォノンの減衰定数を実験的に同定する。また、CSLの周期変調に関連した非自明な実験パラメーターの起源を明らかにするため、結晶のサイズ依存性などの系統的な実験を行う。 元素置換したCrTa3S6結晶ではさらなる高周波化が期待できる。CrTa3S6結晶を用いた実験を行い、CSLの超高周波デバイス機能を実証する。
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