2021 Fiscal Year Annual Research Report
Study of correlated electronic phenomena induced by electric quadrupolar degrees of freedom in nonmagnetic doublet ground state
Project/Area Number |
21J14456
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
草ノ瀬 優香 広島大学, 先進理工系科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | プラセオジム化合物 / 電気四極子 / 四極子秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,非磁性基底二重項をとる新たな立方晶プラセオジム(Pr)化合物を探索し,四極子と伝導電子の相互作用による物性を系統的に捉えることを目的として,以下の3つの項目に着目して研究を行った。 (1)Prの副格子がfcc構造をとるPrMgNi4の単結晶を作製し,物性測定を行った。私たちのこれまでの研究によると,Prの結晶場基底状態は非磁性のΓ3二重項であるが,0.1 Kまで四極子秩序は観測されていない。そこで,原料の仕込み比を変えて試料を作製し,原子配列の乱れと四極子の短距離秩序の相関について調べた。組成が化学量論比に近い試料では,四極子の短距離秩序による1 K付近の比熱の山がより明瞭になった。また,東京大学物性研究所にてパルス強磁場を用いて60Tまで磁化を測定した。結晶場準位のレベルクロスによる磁場誘起相は観測されなかった。 (2)立方晶PrMgNi4と同型のPrCdNi4を作製し,単結晶試料を初めて得た。室温での単結晶X線構造解析と0.38 Kまでの比熱C,磁化Mの測定を行った。相転移によるC(T)のピークを1 K付近で観測し,磁場中でもほとんど変化しないことから,四極子の長距離秩序に起因すると考えられる。M(T)でも1 K付近に異常が観測されたが,変化は小さいことから,非磁性の相転移を支持する。また,多結晶試料を用いた0.04 Kまでの電気抵抗率測定でも,1 K付近に肩の異常を観測した。物質・材料研究機構で18 Tまでの磁気抵抗を測定し,磁場誘起の異常を観測した。 (3)カゴ状化合物RNi2Mg20 (R = Pr, Nd)を作製し,磁化,電気抵抗率,比熱を測定した。非磁性のR = La, Yは作製できなかったため, デバイモデルを用いて格子比熱の寄与を見積もった。得られた磁気比熱のショットキー異常の大きさを評価し,R = Prが非磁性の基底二重項をとることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
非磁性二重項の電気四極子が誘起する強相関量子現象に関する研究は,当初の計画よりやや遅れている。進捗状況については以下の通りである。 (1) 立方晶PrMgNi4の単結晶を原料の仕込み比を変えて作製し,原子配列の乱れと四極子の相関について調べた。組成が化学量論比に近い試料では,四極子の短距離秩序による比熱異常が明瞭になった。したがって,四極子の秩序は原子配列の乱れによって阻害されることが分かった。英国ラザフォードアップルトン研究所ISISの時間飛行中性子分光器MARIで行った非弾性中性子散乱実験の結果を解析し,希土類国際会議REWSと強相関電子系国際会議SCESで発表した。また,結果を原著論文としてまとめた。 (2) 同型構造のPrCdNi4は,化学量論比に近い単結晶の作製に成功し,四極子の長距離秩序による比熱のピークを1 K付近で観測した。Mgの系とCdの系の四極子による物性を系統的に捉えるために,未報告のPrZnNi4とLaZnNi4の作製を,Zn自己フラックス法と融液固化法で試みた。いずれの相も,粉末X線回折と電子線プローブミクロ分析で検出できなかった。現在,同型のPrMgCo4の作製を試みている。なお,予定していたブリッジマンアンビル圧力セルによる12GPaまでの電気抵抗率の測定はまだできていない。 (3) カゴ状化合物RNi2Mg20 (R = Pr, Nd)の多結晶試料が得られ,電気抵抗率,比熱,磁化を測定した。デバイモデルを用いて格子比熱の寄与を見積もった。得られた磁気比熱のショットキー異常を二準位モデルで解析し,R = Prが非磁性の基底二重項をとることを明らかにした。これらの成果を原著論文として発表した。なお,単結晶試料はまだ得られていない。
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Strategy for Future Research Activity |
非磁性基底二重項をとる立方晶Pr化合物に着目し,四極子と伝導電子の相互作用によって生じる特異な物性を系統的に捉えることを目指して,今後の研究を以下の計画に沿って遂行する。 (1) 立方晶PrMgNi4の単結晶試料を用いて磁歪・熱膨張を測定し,四極子感受率の温度変化について調べる。磁歪・熱膨張のデータから,四極子による寄与を抽出する手法を確立する。 (2) 立方晶PrCdNi4の育成方法と温度プログラムを見直し,大型単結晶試料を作製する。電気抵抗率,比熱,磁化を0.3Kまで測定し,また磁場方向に対する転移温度の変化を測定し,相転移の秩序変数を絞りこむ。多結晶の粉末試料を用いて,JRR3の三軸分光器4G (GPTAS)にて非弾性中性子散乱と中性子回折の実験を行う。非弾性中性子散乱により基底Γ3二重項から励起準位への磁気励起を観測し,そのエネルギーと強度の温度依存性から結晶場準位を同定する。また,中性子回折実験により,相転移の秩序変数について調べる。磁歪・熱膨張を測定し,PrMgNi4のデータとの比較を通して,四極子と磁歪・熱膨張の相関を明らかにする。以上の実験結果をまとめて,四極子揺らぎの大きさを系統的に捉える。 (3) 同型構造のPrMgCo4を作製して電気抵抗率,磁化,比熱を測定し,結晶場基底状態を明らかにする。非磁性二重項をとるPrのfcc構造で期待される四極子スキルミオンやtriple q秩序の可能性について探る。 (4) 立方晶カゴ状化合物RNi2Mg20 (R = Pr, Nd)の単結晶試料を作製し,電気抵抗率,比熱,磁化を0.1 Kまで測定する。既存のPrT2X20 (X = Zn, Al)の物性との比較を通して,四極子や磁気モーメントの相互作用ならびに秩序変数について考察する。
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Research Products
(7 results)