2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J14484
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
米田 壮汰 広島大学, 統合生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | カイアシ類 / カラヌス目 / デトリタス食 / 感覚器 / 機能形態 / 分類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、海洋生態系における主要な分解者であるデトリタス食性カイアシ類が、その感覚器をどのように特殊化させ、貧栄養環境での餌探索に適応してきたのか、検証するものである。光・化学感覚器の電子顕微鏡観察の結果、光導波機能が疑われる細胞小器官や、脊椎動物特有の化学感覚細胞に類似した構造など、極めて特殊化していることが明らかとなった。さらに分類群間比較の結果、光・化学感覚の相補的発達が示唆された。16S rRNAメタバーコーディングの結果、感覚器構造が異なる分類群間で消化管内細菌叢が異なっており、付着細菌が異なる餌デトリタスの食い分けが考えられる。このように、感覚器の詳細な機能形態から、それらがどのようなデトリタスへの適応なのか、食い分け現象による多様性の形成・維持に至るまで、詳細で包括的な知見が得られた。これらの結果の一部は学会発表され(米田他, 2021; Chan et al., 2021)、今後は論文投稿も行う。 上記の研究を行う過程において、分類学上の混乱が大きな問題となった。特に近底層性のカイアシ類では未記載のものが多く、系統関係についても不明な点が多い。そこで、研究過程で発見されたカイアシ類1新種を記載し、分子系統解析を行った。この結果は査読付き国際誌から出版された(Komeda et al., 2021)。加えて、感覚器観察を行ったデトリタス食性カイアシ類の科レベルの分類や系統関係は混乱しており、分子系統解析によっても結論が出ていない。そこで、付属肢形態や感覚器構造まで考慮に入れた系統解析を行っており、分析・執筆の段階にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
感覚器の電子顕微鏡観察により、多くの新発見がもたらされた。光感覚器内部から機能未知の細胞小器官Phaosomeが発見され、光路解析から光導波機能が推定された。さらに、化学感覚毛には脊椎動物特有の感覚細胞Solitary chemosensory cellsに類似した細胞が節足動物で初めて確認された。分類群間比較の結果、光感覚器が欠失した種で化学感覚毛が発達しており、これら感覚器の相補的関係が明らかとなった。また16S rRNAメタバーコーディングによる消化管内細菌叢解析の結果、発達する感覚器によって消化管内細菌叢が有意に異なり、餌デトリタスの食い分けが示唆された。光感覚器が発達した種の消化管内では、発光性種を含むビブリオ科細菌が優占しており、デトリタスに付着する細菌の発光を感知すると推定された。一方、これが欠失した種では個体間で細菌叢が異なり、餌選択性が低いと考えられる。デトリタス食性カイアシ類は特殊な感覚細胞を持った精巧な感覚器で貧栄養環境での餌探索を可能とし、さらに各分類群が異なる餌の探索に特化することで、食い分けによる多様化を実現したと考えられる。これらの研究に加え、デトリタス食性カイアシ類の形態形質に基づく系統解析を行い、分類体系の再考を行っている。 上記の研究作業のうち、電子顕微鏡観察およびPhaosome機能検証に使用する物品の購入に科研費を使用した。出費に見合った成果は既に得られており、適切な資金運用であったと考える。また、英文校正費にも使用したが、これは次年度の論文投稿に必要不可欠であり、今後の成果に繋がる出費である。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点までの研究作業で、既に多くの新規性に富んだ結果が得られた。そのため、次年度では論文投稿を中心に行う予定である。これに加え、新たな試料を採集するための調査航海を5月と6月に予定している。新たな実験項目として、レーザー照射による細胞小器官Phaosomeの光導波機能の検証や、化学感覚細胞の追加観察および受容体の免疫染色等を考えている。また、本研究で新規に観察された化学感覚細胞が他分類群に観察されるかも調査予定である。
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