2021 Fiscal Year Annual Research Report
時空間パターン形成由来の螺旋ナノ構造体が持つキラル分子応答性の理解
Project/Area Number |
21J14745
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安田 拓海 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 自己組織化 / Si溶解 / 湿式処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は,シリコン(Si)基板の湿式処理において形成する高次元構造体,特に螺旋状ポア(ヘリカルポア)のキラル分子応答性を理解することにある.当該年度では,試料中に存在するヘリカルポアの巻き方向制御を達成すべく研究を進めた.特に,Siの湿式処理自体に関する知見を深めるべく,関連課題として濃厚フッ化アンモニウム浴を用いたSiの陽極酸化において形成する高次元構造体(本系の場合は,二次元方向に成長する構造体)を取り上げ,形成メカニズムの解明と応用法の探索を行なった.メカニズムの解明では,表面及び断面方向から構造体の観察を実施し,二次元成長が基板内部で進行することを明らかにした.また,電気化学挙動の評価も行い,処理条件において「Si溶解が促進される活性状態」と「表面状態の変化によりSi溶解が抑制される不活性状態」のいずれも安定であることがわかった.この二状態は溶解生成物による導電率変化の影響を受けて変化することも示唆された.以上のことから,Si溶解により自発的に形成する液の電位分布と双安定な挙動が合わさることにより,Si基板内部での二次元成長が起きていると考え,モデル構築を行なった.また,本材料の応用として構造体内部への金電析を行なった.処理後の試料を観察すると,元の基板表面はほとんど反応せず,構造体内部にのみ金が析出している様子が確認された.すなわち,本材料が二次元配線の簡便な作製手法として応用可能であるといえる. 本研究成果の意義は,構造体が基板に対して垂直にしか成長しないとされてきた陽極酸化において基板と平行な成長が起きる系に着目し,その成長メカニズムを解明したことにある.二次元成長が起きる原因はSi系に特異な挙動ではないため,本研究で提示した知見を用いれば,別材料の陽極酸化においても二次元成長が誘起できると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度の研究により,湿式処理における高次元構造体の形成に関する知見は大いに深まったといえる.一方,当該年度の研究を通してヘリカルポアの巻き方向制御に関する十分な知見が得られたとは言いがたい. 制御法の確立には導入した要素がいかにポア形成に影響しているかをin-situで測定する必要があるが,反応がナノ細孔中で進行する以上,影響のin-situ評価は極めて困難である.そのため今後は,実験的な手法探索に加え,シミュレーションによりある要素がヘリカルポア形成に与える影響を調査し,巻き方向制御を達成する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
前項の通り,本年度は計算機シミュレーションを駆使してヘリカルポアの巻き方向制御を達成し,本来の目的であるキラル分子応答性の評価を行う.ポア形成を引き起こす酸化・還元反応,腐食に関する拘束条件,Si溶解による界面の変化をモデルに組み込むことで,ヘリカルポア形成を再現する.計算モデルが確立すれば,溶液内の電位・濃度分布に影響しうる因子を導入し,それらにより巻き方向が制御可能か検討する.制御可能と判断された場合,同様のセットアップを実際に組み,実験的な評価を行う予定である. 上記の課題が解決されれば,キラル分子応答の評価に進む.キラル化学において頻繁に用いられる分子(例えばDOPA)に関して,本材料を作用極とする電気化学測定を実施し,L/Dの差異がみられるかを検討する.応答性がみられた試料に関しては,VCDなどの分光測定によりポア内の分子描像を特定し,応答性の起源についても調査を行う.
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