2021 Fiscal Year Annual Research Report
世界初の脂質代謝改善ジペプチドの発見を基盤とするペプチド研究の革新的展開
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21J14848
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
坂野 新太 岐阜大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | LC-TOF/MS / ジペプチド / 血中定量 / 門脈 / HepG2細胞 / 脂質蓄積モデル / 細胞内コレステロール / CYP7A1 |
Outline of Annual Research Achievements |
高脂血症・高コレステロール血症、動脈硬化症などの生活習慣病の予防改善のための多くの医薬品・食品の登場にも関わらず、世界の死因の第 1 位は、依然として心疾患系であり、その原因である動脈硬化症の根本的解決には至っていないのも厳然たる事実である。これまでに、高コレステロール血症を予防するための食による主要戦略は、機能特性を備えた食品または食事成分を含む食事の摂取であると考えられ、多くの研究がなされてきた。特に、世界的にも「予防の視点」から食品成分の高度利活用は大いに期待されており、脂質代謝を改善するための革新的理論・技術が切望されている。とりわけ、ペプチドは物理化学的な幅広さから多種多様な酵素や受容体に結合し、生体の代謝や生理機能に様々な影響を及ぼすことが知られている。今回の焦点である生体内で血清コレステロール値を低下させる特定の食品由来ペプチドについての理論・技術は未成熟である。以上の背景から、ペプチドの高度有効利用のための革新的な理論や技術が切望されている。 我々が世界で初めて発見した、FPのコレステロール代謝改善作用は、腸ペプチド輸送担体(PepT1)を必須とする新規コレステロール吸収調節系が関与する。 本発見は、PepT1がFPによるコレステロール代謝改善の発揮には必須であるという発見である。しかし、FPが本当に細胞に取り込まれているのか? FPが細胞内に取り込まれた後、ジペプチドの形で作用するのか、別の形で作用するのか、または別のファクター(血液などの体液成分や神経系を含む)が働いて作用するかはブラックボックスである。この長年、誰も解決できなかったペプチドの謎を明白にしていく為に、現在継続中である血中のFP定量などを行う。そして、新規コレステロール吸収調節系の作用機構の全貌を解明する上で、重要なデータを得られつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ラットによるFP経口投与実験 (合成ペプチド) を行い、門脈を採血後、前処理を行い血漿サンプルを回収した。そして、安定同位体や誘導体を用いて、質量分析装置LC/MS (Waters(Acquity UPLC H-Class Xevo G2 SQ-TOF)) (設備備品 (大学共用)で、血中FPの精密質量分析を行い、FPの血中濃度を定量した。その結果、投与後30分後は投与前より有意に濃度が上昇したのが認められた。また、血中FP濃度の測定は、従来報告がなく、世界初の成果である。この結果より、投与されたFPの一部は門脈を通り、肝臓まで到達し効果を発揮している可能性があると考察した。FPの生理的な濃度を見出したが、過去のラットやPepT1KOマウスによるFP経口投与実験で肝臓コレステロールや肝臓脂質の低下を考慮すると、HepG2細胞に対する生理的血中濃度のFPの添加による影響を評価する必要に迫られた。 そして、生理的血中濃度のFPをHepG2細胞に添加し、脂質代謝への影響として、脂質代謝関連mRNA、細胞内コレステロールを定量した。同時に、オレイン酸やパルミチン酸を添加し、脂質蓄積モデルを作製した上で、生理的血中濃度のFPを添加した時の改善効果を評価した。そして、驚くべきことに、脂質蓄積モデルにFPを添加した場合、細胞内コレステロールが低下し、CYP7A1のmRNA発現が有意に上昇した。今回の条件から、FPの脂質代謝改善効果を見出した。この研究により、生理的な濃度のFPが培養細胞の脂質代謝に本当に影響するかどうかが評価可能である。従来の報告では、生理的濃度のジペプチドの脂質代謝改善作用の報告は極めて少なく、新規性に富む研究内容である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、LC-TOF/MSを用いてFPの吸収機構をより深く理解し、HepG2細胞による脂質蓄積モデルをベースとしたFPの生理的濃度による脂質代謝改善作用の革新的探索評価技術の基盤を整えるまでに至った。次の段階として、当該年度でもFP血中濃度定量と並行して調査していた、主要食品タンパク質 (肉・牛乳・米・大豆など) の消化で生じるジペプチドのうち、量的に多いジペプチドをフリーソフトであるペプチドカッターを用いて評価し、最も消化で生じるジペプチドを解明し、脂質代謝に対する影響を評価するのも進めていく。 加えて、小腸ではABCA1 遺伝子プロモーターの変異体や ABCA1 遺伝子プロモーターに結合する転写因子を用いて、Luciferase assay を行う。また、肝臓ではCYP7A1遺伝子プロモーターに結合する転写因子を用いて、Luciferase assay を行う。以上を今後の実験計画に取り入れることを想定しており、最終的には革新的探索評価技術を用いて、ペプチド構造による科学的法則および構造活性相関法則の構築を目指す。
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Research Products
(2 results)