2021 Fiscal Year Annual Research Report
π共役分子集合体の光物性制御に向けた高精度電子状態計算の開発
Project/Area Number |
21J14877
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西尾 宗一郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | π共役分子集合体 / 励起状態計算 / 波動関数理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、これまでに開発したVPS-CASSCF法およびVPS-CASPT2法を応用し、π共役分子集合体における電子状態の透熱カップリングを高精度に計算する手法の開発を行なった。VPS波動関数の数理的特徴を生かすことにより、VPS-CASSCF/PT2の(有効)ハミルトニアン行列に比較的簡便な操作を施すことで透熱カップリングを算出する手法を開発した。またVPS-CASSCF/PT2法それぞれで得られた透熱カップリングの値を比較することにより、一重項分裂や三重項励起子移動など分子間での電子交換を伴う過程では、本研究におけるVPS-CASPT2法のように動的電子相関を考慮する手法を用いた場合に、より精度のよい透熱カップリングの値が得られることを見出した。これらの研究成果についての論文を筆頭著者として執筆し、The Journal of Chemical Physics誌に発表した。加えて、上記の成果に基づき、VPS-CASPT2法で得られる精度の高い励起エネルギー準位および透熱カップリングの値を用いて、π共役分子集合体における励起状態のモデリングを行うよう研究を進めている。エキシトンモデルに基づくモデルハミルトニアン解析や、励起状態波束ダイナミクスへの応用を、プロトタイプ開発などを行いながら模索し、各手法の有効性を吟味している。当初の計画をなぞりつつも、柔軟な発想でモデルや手法を選択することにより、π共役分子集合体の光物性制御に対してより有用性の高い理論計算手法の開発を試みている状況である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、π共役分子集合体の励起状態計算における、透熱カップリングの算出法開発および算出したカップリングの精度検証が主な取り組みであった。当初はVPS-CASPT2法を3分子、4分子以上に拡張することを計画していたが、プロトタイプ作成と検証を繰り返した結果、2分子で精密なパラメータを算出した上で、それを組み合わせる形で大規模集合体への拡張を行なった方が精度・効率の両面で優っていると判断し、上記の内容で研究を進めた。本年度の研究では、本課題で注目している一重項分裂現象における透熱カップリングを精密に算出するためには動的電子相関を考慮した計算手法を用いる必要があることと、本研究で開発しているVPS-CASPT2法を用いることでこのカップリングが精密かつ効率よく算出できることを見出し、これらの内容はThe journal of Chemical Physics誌へ論文として発表している。本年度の研究実績は当初の計画から軽微な変更はあったものの、本年度の実績を踏まえてこの先の研究をより発展させられるようなものであったため、課題の進捗状況としてはおおむね順調に進展しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、大規模分子集合体の励起状態シミュレーションに必要となる励起準位および電子状態間の透熱カップリングを精密かつ効率よく算出することが可能となった。それを踏まえ、今後の研究では、当初の計画にもあるとおり励起状態波束シミュレーションへ手法を拡張させることを検討している。また、本年度の研究をする中で、大規模分子集合体に対する励起状態シミュレーションを行うためには、エキシトンモデルなどに基づくモデルハミルトニアン解析も有効であると判断した。したがって、今後の研究ではペンタセン集合体などにおけるモデルハミルトニアン解析手法を開発し、吸収スペクトルの予測などを行っていく。本年度の研究成果に基づいて柔軟に手法・モデル選択を行うことで、π共役分子集合体の励起状態計算手法およびそれを有効に組み合わせた励起状態シミュレーションのスキームを開発していく。また、これらの方策により得られた研究成果を学会で発表し、また原著論文として学術誌に投稿する予定である。
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Research Products
(2 results)