2021 Fiscal Year Annual Research Report
複合物理-非因果モデルに基く先端技術システムの革新的リスクアセスメント手法の構築
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21J15335
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
鈴木 智也 横浜国立大学, 環境情報学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | リスクシナリオ特定 / 定量的リスクアセスメント / システムレベルモデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、構築手法の適用性検証を行う対象システムの選定、および手法構築に必要となる要素技術の開発に取り組んだ。本研究では、構築RA手法の適用・検証対象システムとして、先端技術システムの一種である「圧縮水素型水素ステーション(HRS)における水素充填システム」および再生可能エネルギー由来の電力を貯蔵する「大型蓄電池を用いたエネルギー貯蔵システム(BESS)」を選定し、以下の成果を得た。 ①リスクシナリオの特定および定量分析技術の高度化 現行BESSに用いられるリチウムイオン電池(LIB)の通常時および熱暴走時における熱および電気的現象について、基礎的な物理方程式を非因果的に組み合わせることでLIBモジュールモデルを構築し、実験値との比較によりモデルの妥当性検証を行った。当該モデルを拡張してシステム内パラメータの挙動予測を可能としたモデルに対し、複数の入力パラメータの変動を仮定した過渡解析の結果得られる出力パラメータの異常値を検出することで、リスクシナリオの特定および定量分析を実施した。その結果、従来のブレインストーミング式のリスクシナリオ特定を補完可能であることが示された。 ②リスク分析技術の確立およびシステムリスクの最適化に向けたリスク情報更新技術の確立 ①で構築したモデルを拡張してシステムの挙動予測が可能なモジュールモデルを構築し、過渡解析の結果からリスクシナリオのリスク分析技術について検討した。具体的には、複数のLIB間で熱暴走が伝播していくリスクシナリオについて、当該モデルにおける複数の入力パラメータの変動分布を仮定し、モンテカルロシミュレーションを用いてLIB間での事象伝播確率の算出を可能することで、当該シナリオの発生頻度を定量化可能であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は主に、構築手法の適用性検証の対象とする技術システムの選定、およびRA手法構築にあたって必要となる要素技術の開発に取り組んだ。当該モデリングを用いたRA技術の開発事例として、申請時から検証対象としていた「HRSにおける水素充填システム」を題材としてモデル構築および定量的リスク分析を実施した検討に関しては、国際学会における口頭発表および査読付国際学術雑誌への投稿により、既にまとまった成果が一般公開されている。また、「BESSにおけるリチウムイオン電池(LIB)を複数個接続した蓄電池モジュール」を題材としてモデル構築およびシステムの挙動予測、リスクシナリオ発生頻度算出技術開発を実施した検討についても、国際学会にて1件、国内学会にて3件を既に発表済みであり、その成果の一部については学術雑誌へ論文投稿中である。国内外における緊急事態宣言発令下等の状況においては、研究拠点大学への登校人数制限等の措置が取られたが、リモート設備や学内PCの遠隔操作等を駆使して研究活動を進めた。また、同状況下においては各種の国内・国際学会が現地開催からオンライン開催へ変更となったものの、本研究により得られた成果について精力的な発表を続けている状況である。来年度においても既に国内学会において4件の発表を予定している。一方で、今年度までの検討として予定していた、「システムリスクの最適化に向けたリスク情報更新技術の確立」に関連する検討については、進捗が少ない状況である。理由としては、当初の予定よりもBESSのモデル構築および妥当性検証に時間を要したことなどが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の検討では構築RA手法の検証対象システムとして、昨年度と同様のシステムに加えて化学プロセスシステムを選定し、前述の目的達成に向けて昨年度の未達項目も含めた以下の検討を実施する。 ①化学反応を含むプロセスモデル構築およびリスク分析技術の確立:複合物理領域・システムレベルモデリングにおいてモデル化が困難である化学反応について、化学反応に伴う現象を定式化してプロセスに組み込んだ化学プロセスシステムモデルを構築することで、より広範なシステムに対して適用可能な手法を目指す。特に、暴走反応を生じる可能性のある化学反応を対象とし、入力パラメータとしては実験的に得られた当該反応の反応速度等に関する情報を活用することで、暴走反応発生時のプロセスの挙動予測およびプロセスの破損確率や定量的リスク情報の取得を目指す。 ②システムリスクの最適化に向けたリスク情報更新技術の確立:これまでに構築した各システムのモデルおよびリスク分析技術を活用して、リスク最適化に向けたリスク情報更新技術を構築する。前年度までに構築したリスク分析のスキームを活用して得られたリスク値を物理モデルにフィードバックしてモデル全体のリスクを低減・最適化するモデル修正機構を物理モデルに付与し、システム全体のリスク情報を更新することでリスク最適化を図るリスク情報のダイナミックな更新・最適化技術を確立する。 ③構築RA手法の適用性検証:確立した要素技術を基に構築したRA 手法を検証対象システムに再度適用し、システム設計開発段階におけるRA の目的や計算コスト等の観点から、選定するモデルパラメータの種類、モデルの詳細度等について修正を図る。さらに、リスク情報の更新技術をさらに洗練し、物理モデルの構築およびリスク情報の更新技術のスキーム化を行った上で、構築手法の実施プロセスの合理性を確認すると共に手法の利点・弱点についても整理する。
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