2021 Fiscal Year Annual Research Report
炎症時におけるアデノシン動態変化が肝線維化へのスイッチシグナルとして働く可能性
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21J15529
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
土肥 直貴 静岡県立大学, 薬食生命科学総合学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 肝線維化 / 肝星細胞 / NAFLD / NASH |
Outline of Annual Research Achievements |
肝線維化は肝星細胞(HSC)が炎症により活性化され、過剰なコラーゲンを産生・分泌することで引き起こされる。そのためHSCの活性化を抑えることが治療ターゲットであると考えられており、活性化メカニズムの解明も重要な課題である。 申請者らはCaffeineがアデノシン受容体阻害を介してHSCの活性化を抑制すること、さ炎症性サイトカインPGE2が単独ではHSCの活性化を促進する傾向にあるが、驚くべきことにCaffeine存在下ではCaffeine単独よりもHSCの活性化を強く抑制することを明らかにした。これらの結果をもとに、“アデノシン受容体に刺激が入っていない場合は、サイトカインはHSCの活性化を抑制する、一方で炎症などによりアデノシン受容体が刺激されHSCが活性化される条件では、サイトカインによりHSCの活性化が促進する”という仮説を立てた。本研究では仮説立証のため、①アデノシン受容体阻害がPGE2の作用を反転させる機構の解明、②アデノシン動態と肝線維化との関連の解明、を目的とし、肝線維化治療・予防法および診断法の開発を目指す。 初年度は目的①に関して、mRNA-seqによりマウス初代培養HSCのmRNAを網羅的に解析し、併用群においてのみ働いているシグナルを抽出することで、反転機構を担う候補因子をいくつか見出した。その候補分子に関してHSCの活性化への関与、またCaffeineとPGE2がどのようなメカニズムで候補分子の発現を調節しているのかを明らかにする。 目的②に関して、NASHモデルマウスの肝組織RNAを用いてアデノシン関連分子の発現を比較したところ、アデノシン産生酵素の上昇やアデノシン分解酵素・輸送担体の低下がみられ、NASHにおいてアデノシンが過剰に作用する可能性が示された。今後はアデノシン関連分子の発現変化がHSC活性化や肝線維化に直接的に影響するかどうかを検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的①:アデノシン受容体阻害がPGE2の作用を反転させる機構の解明に関しては、マウス単離肝星細胞(HSC)のRNAサンプルを用いてmRNA-seq解析を行うことで、予定していた通りアデノシン受容体阻害によるPGE2の作用反転機構を担う候補シグナルおよびそれに関連する候補分子をいくつか見出すことができた。またこれらの分子がHSCの活性化に関与することを明らかにし、おおねむ順調に進んでいる。 目的②:アデノシン動態と肝線維化との関係の解明に関しては、GAN dietとCDAHFDを用いて2種類の自然発症型NASHモデルマウスを作製し、肝組織および単離細胞よりRNAを抽出し解析を行った。その結果、アデノシン輸送担体および分解酵素の減少、またアデノシン産生酵素の増加が見られ、“肝線維化に過剰なアデノシンシグナルが関与する”という仮説を支持する結果を得た。さらに異なる線維化の進行度や加齢、細胞種間での発現の比較も行っており、原因細胞の同定やアデノシン動態の変化に関しても解析が進んでおり、おおむね順調であると判断できる。これらの結果をもとに、“線維化発症前の脂肪肝の段階からアデノシンの代謝が低下することで過剰なアデノシンシグナルが働くことが線維化発症へのトリガーとなる”という新たな仮説を立て、次年度に向けてin vitroでのNAFLDモデルの確立や遺伝子改変マウスの作製も進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
①肝星細胞の活性化におけるアデノシン受容体阻害によるPGE2の作用反転の機序の解明 マウス単離肝星細胞(HSC)における網羅的mRNA発現解析の結果から、Caffeine+PGE2においてのみ働いていると予想される分子の中からGlutathione S-transferase α4(GSTA4)を候補遺伝子として見出した。その後の検討によりGSTA4がHSCの活性化を抑制性に制御することを明らかにした。今後はHSCにおいてアデノシン受容体阻害とPGE2によるGSTA4の発現調節機構を解明する。まずGSTA4を転写制御する転写因子Nrf2に着目し、アデノシン受容体阻害およびPGE2によりNrf2の働きがどのように変化するのかをレポーターアッセイを用いて検討する。Nrf2の制御に関しては、Aktのリン酸化によるNrf2の活性化、またKeap1によるNrf2の分解調節が報告されている。これらの知見を基に、アデノシン受容体阻害およびPGE2により、Aktのリン酸やKeap1を介したNrf2の発現がどのように変化するのかを検討する。 ②アデノシン動態と線維化の関連の解析 NASHモデルマウスのRNA解析より変動していたアデノシン関連分子に着目し、HSCの活性化および線維化に関わるアデノシン関連分子の同定を行う。マウス肝実質細胞株AML-12細胞にパルミチン酸を添加するとアデノシン産生酵素の発現が亢進したため、これをNAFLDモデルAML-12細胞とした。このAML-12細胞とHSCを共培養することでHSCの活性化が促進した際に、アデノシン関連分子の発現をノックダウンや過剰発現により変化させることでHSCの活性化に関与するアデノシン関連分子を明らかにする。さらに線維化モデルマウスにおいて、アデノシン関連分子の発現変動により線維化が改善するかどうかを検討する。
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Research Products
(1 results)