2021 Fiscal Year Annual Research Report
α-MSHとAVTによる生得的行動制御のメカニズムの解明
Project/Area Number |
21J15600
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
渡邉 桂佑 富山大学, 生命融合科学教育部, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
Keywords | キンギョ / α-黒色素胞刺激ホルモン / 不安様行動 / 脳室内投与 / メラノコルチン4型受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物は周囲の環境や置かれた状況に適した行動をとる生得的行動を示す。その調節には神経ペプチドが重要な役割を果たしている。特にα-黒色素胞刺激ホルモン(α-MSH)やアルギニンバソトシンなどは末梢ではホルモンとして個体の恒常性を維持する一方で、脳では摂食行動などの生得的行動を調節している。その個々の機能については研究が進んでいるものの、末梢と中枢が生存のためにどのように協調しているかという観点での研究はほとんど行われていない。また、魚類のα-MSHの機能とそのメカニズムには不明な点も多かった。本研究の研究成果により、小型魚類のキンギョにおいて、α-MSHは末梢では体色を制御しつつ、脳内では摂食行動に関わるだけでなく、情動行動(不安様行動)をも調節することが明らかにされた。さらに、血中を循環しているα-MSHが脳内の受容体を介して摂食行動および情動行動を制御することを明らかにした。これらの結果から、α-MSHが脊椎動物で保存された機能を有していることが明らかになり、循環しているα-MSHが脳内に進入して中枢作用を発揮することで末梢と脳内の機能を協調させる可能性が考えられた。一方でα-MSHと他の生理活性物質の関係についても研究が進み、不安様行動の調節に不可欠な神経伝達物質GABAおよびドーパミン産生ニューロンとα-MSH陽性ニューロンの組織学的な関係も見出しつつある。これらの結果よりα-MSHが情動行動を調節する神経基盤も明らかにしつつある。体色調節・情動行動・摂食行動の3事象が巧みに協調することが想定され、本研究がα-MSHの生存における生理学的な役割およびその意義を理解する端緒となりうる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、主に行動試験と組織学的な観察を組み合わせて、キンギョにおけるα-黒色素胞刺激ホルモン(α-MSH) の中枢作用を解明し、その作用部位や関わる神経機序の解明について取り組んだ。α-MSHの脳室内投与はキンギョの遊泳パターンを変化させた、すなわち不安様行動を誘発した。また、それらがメラノコルチン4型受容体(MC4R)を介した反応であることを薬理学的に明らかにした。これらのことからα-MSHはキンギョにおいてMC4Rを介して不安様行動を惹起することが示唆された。これらの研究成果は論文として公表した(Watanabe et al., Peptides 2021; 145: 170623)。α-MSHは血中を循環するホルモンでもあるので、末梢に存在するα-MSHの中枢作用についても検討した。α-MSHの腹腔内投与は脳室内投与と同じく不安様行動を誘発した。また、腹腔内投与したα-MSHは内臓神経などの上行性神経を介さず、直接脳内に進入してMC4Rを介した中枢作用を発揮する可能性を見出した。次に不安様行動の調節に深く関与している神経伝達物質であるGABA、ドーパミン、セロトニンとα-MSHの組織学的な関係の有無を精査した。二重免疫組織化学染色を実施しており、α-MSH陽性神経線維とGABA作動性神経およびドーパミン作動性神経の共染色が確認されつつある。次年度にかけて、α-MSHの作用部位の同定を行うため神経活動の指標になるc-Fosなどの免疫染色とMC4Rの局在を精査するin situ ハイブリダイゼーションの系を立ち上げ、プロトコールの最適化を図っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
α-黒色素胞刺激ホルモン(α-MSH)の作用やメカニズムを理解するために、その作用部位の同定が必須事項である。メラノコルチン4型受容体(MC4R)のおおまかな組織発現をPCRにて把握したので、in situハイブリダイゼーションにより発現局在を詳細に観察する。また、中枢でのα-MSHの作用部位を探るために神経活性化マーカーを指標にした解析もリン酸化ribosomal protein S6抗体による免疫染色が可能であることが分かったので、検討を進めている。本年度にα-MSHの腹腔内投与が脳内のMC4Rを介して不安様行動を惹起する結果を得たので、末梢のα-MSHが血中から脳内へ移行した可能性が考えられる。そこで、標識したα-MSH を末梢投与し、その脳内への移動を組織学的に検出できるか試みる。またMC4Rの発現と照らし合わせながら、進入部位を同定する。
|