2021 Fiscal Year Annual Research Report
低標高性動物と高標高性動物における動物地理の比較、地理的障壁という概念の再検討
Project/Area Number |
21J15659
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡部 晋也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
Keywords | Biogeography / Morphology / Topography / Isolation / Shrew mole |
Outline of Annual Research Achievements |
1. ヒミズUrotrichus talpoidesの頭骨形態における地理的変異と生物地理 日本固有種のヒミズ(モグラ科、哺乳綱)の頭骨296標本を形態計測・解析し、本土(本州・四国・九州)と周辺島嶼(隠岐・見島・対馬)の各島に生息する個体群に形態的な違いを明らかにした。さらに周辺島嶼の個体群は本土のものよりも歯列が大きくなることを示した。本結果を踏まえて、これまで日本の島嶼生物地理において支持されてきた「島嶼化」という動物の体サイズ変動を捉える概念に替わり、氷河期から間氷期に移行する際の海水面上昇に伴う「周辺島嶼における島面積の縮小」が動物の形態進化に与えた影響の重要性を提唱した。本研究はアメリカ哺乳類学会の国際誌のJournal of Mammalogyに投稿中である。 2. ヒミズUrotrichus talpoidesにおける新たな歯列異常 ヒミズの頭骨1,001標本の歯列を調査し、歯列異常を欠失歯・過剰歯・双丘歯として17個体(1.7%)から12件見つけ、このうち犬歯・第2小臼歯・第4小臼歯の過剰歯と犬歯の双丘歯を初めて報告した。本結果から、ヒミズはモグラ科に属する動物としては低い頻度の歯列異常を持つことを明らかにした。さらに、本研究は歯列異常の観点から、ヒミズの歯式に対する半世紀以上続いた論争に対し、I 3/2, C 1/1, P 3/2, M 3/3 = 36 (Ziegler 1971)の歯式を採用するべきという提唱を行った。本研究は、日本哺乳類学会の国際誌のMammal Studyに2021年に受理・掲載された。 3. ヒメヒミズDymecodon pilirostrisの頭骨形態における地理的変異 日本固有種のヒメヒミズ(モグラ科、哺乳綱)の本州・四国・九州より収集された頭骨103標本を形態解析した。本研究は現在、国際誌への投稿へ向けて執筆中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大に伴う海外渡航制限の規制に変化が大きかったため、野外調査について計画を立て、その計画がとん挫するというサイクルを繰り返した1年だった。特に、インドシナ半島での野外調査・現地の博物館および研究施設に保管中の標本・遺伝子サンプルへのアクセスが困難であった。さらに、重要視していた、ミャンマーの高標高地域にて蒐集し、ヤンゴン大学に保管していた標本へのアクセス・新規の野外調査がコロナ禍だけでなく政治的な理由により継続困難になってしまい、インドシナ半島における研究方針を修正する必要があった。このため、手持ちのデータおよび京都大学総合博物館に収蔵されている標本と遺伝子サンプルを用いて解析を進めている。また、日本国内においても、野外調査をスムーズに行うことが難しく、限られた回数のみ実施できた。このため遺伝子サンプルの蒐集が予定より遅れてしまった。幸い、日本国内で博物館標本を中心としたデータ収集と解析を進められたため、形態変異解析による動物地理研究を遂行することができ、頭骨形態変異に基づいた地域個体群の地理的パターンが見えてきた。低地に分布する動物は海による隔離に加え、本土と周辺島嶼の気候変動に伴う接続と分断による地形の変化をうけて、地域個体群が多様な形態に進化することを示唆した。一方で、高地に分布する動物は山岳地形により地域個体群が隔離され、気候変動に伴う個体群分布がレンジシフトすることで、地域個体群が多様な形態に進化することを示唆した。この日本国内の低標高性と高標高性の動物を比較から、少なくとも頭骨形態では、全く異なる多様化の地理的パターンが存在し、低地と高地はそれぞれに進化生物学的に重要な地形であることを示せつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
先ず、現在執筆中のヒメヒミズの頭骨形態の地理的変異研究を書き上げて、国際誌に投稿する。次に、昨年度に叶わなかった、野外調査による標本・データ収集を進めていきたい。日本の低地と高地の動物地理研究では、既に国際誌に投稿した研究であるヒミズ頭骨形態解析の結果から、ヒミズの小島嶼個体群が、形態的進化を起こしやすい傾向にある可能性が見えてきた。このため、遺伝解析には小島嶼のヒミズ個体群も含める必要性がある。また、ヒメヒミズの頭骨形態解析結果からは、近接する山岳間にも形態的に異なる個体群が認められたため、遺伝解析には当初予想したよりも広範囲で網羅的なサンプル蒐集の必要性がでてきた。このため、日本国内の山岳地帯における野外調査を今後も継続していき、遺伝的な地理パターン比較による標高間の動物地理と日本の複雑な地形が持つ進化的重要性を追求していきたい。インドシナ半島におけるアガマ科のトカゲ類の動物地理研究については、新規の野外調査だけでなく、現地の博物館に収蔵されている近縁種の標本を計測することにより、自身のデータがもつ新規性を浮き彫りにして、インドシナ半島の標高差が生み出す生物進化パターンを解明したい。大学所定の海外渡航申請様式を既に記入し終えているため、海外渡航の機会を伺いながら、手持ちのデータと併せて京都大学総合博物館に収蔵されている標本を用いた形態・遺伝子解析を引き続き進めていきたい。
|