2021 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of Unusual Thermal Conductivity of Silver Chalcogenides and Development of Heat Flow Control Devices
Project/Area Number |
21J15714
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Research Institution | Toyota Technological Institute |
Principal Investigator |
平田 圭佑 豊田工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 銀カルコゲナイド / 熱伝導度 / 電子熱伝導度 / 格子熱伝導度 / 熱ダイオード / 熱スイッチ / 熱流制御 / 熱マネージメント |
Outline of Annual Research Achievements |
熱ダイオード・スイッチ等の熱流制御技術を確立できれば、未利用熱・廃熱等を熱が必要な場所・時間に効率的に運び有効利用することで、カーボンニュートラル・省エネルギー社会の構築に貢献することが可能となる。実用可能な素子の開発には、固体の熱伝導度を支配する因子を徹底理解した上で、物理的考察から性能向上指針を構築することが不可欠である。 本研究では、銀カルコゲナイドで観測された異常な電子・格子熱伝導度(相変態にともなう電子・格子熱伝導度の急激な変化、極めて低い格子熱伝導度、古典論では説明できない電子・格子熱伝導度)について、これらをもたらす新奇物理現象を最先端の実験・計算手法を駆使して解明し、得られた知見から熱伝導を制御・設計する指針を構築する。また、得られた指針から、世界に先駆けて実用可能な熱流制御素子および新たな熱機能性材料の開発手法を確立することを目指している。 本年度は、電子・格子熱伝導度の古典論では説明できない絶対値および異常な挙動について、定量解析手法の構築を目的とし、高品質試料の作製、精密な物性測定、および、放射光を用いた精密結晶構造解析を行った。その結果、熱伝導度の異常な挙動は、電子・格子熱伝導度の両方が変化することで生まれ、絶対値の評価には、従来用いられてきた単純なヴィーデマン・フランツ則は役に立たず、強散乱極限において長波長音響フォノンだけが熱輸送に寄与すると仮定したモデルで説明できることが分かった。上記のモデルで再現しきれなかった一部の詳細な挙動も、放射光X線回折実験からフォノン散乱強度や非調和熱振動を見積もることで、ある程度解釈可能なことが明らかになりつつある。また、解析過程で得られた異常な電子・格子熱伝導度に対する知見から、極めて低い格子熱伝導度、縮退半導体的電子構造、顕著な磁気抵抗効果を有する本材料系では、電場・磁場による熱伝導度制御が可能なことを実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
精密な試料作製・物性測定・結晶構造解析等から、銀カルコゲナイドにおける熱伝導度の異常な挙動について、電子・格子熱伝導度成分のそれぞれの寄与をある程度定量的に説明できる評価手法を見出すことができた。また、解析を経て得られた異常な電子・格子熱伝導度に対する知見から、極めて低い格子熱伝導度、縮退半導体的電子構造、顕著な磁気抵抗効果を有する本材料系では、電場・磁場による熱伝導度・熱流制御が可能なことを実験で証明できた。 一方で、電子構造およびフォノン分散を参照した電子・格子熱伝導度の厳密な理解を目的とする角度分解光電子分光実験および非弾性X線散乱実験は、単結晶作製が難航し、本年度中に遂行できなかった。今後の研究方策欄に示した実験手法・スケジュールの再検討を行い、来年度に実施する計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
異常な電子・格子熱伝導度の厳密な理解を目的とし、角度分解光電子分光実験および非弾性X線散乱実験から、様々な組成の銀カルコゲナイド系の電子構造およびフォノン分散を明らかにすることを目指す。これまでに、銀カルコゲナイドの100-200℃での相変態が、一般的な手法による大きな単結晶作製を困難にしていることが分かった。そのため、試料作製方法を見直し、別材料の単結晶基板上にエピタキシャル成長させた薄膜試料、または、大きな多結晶バルクからから砕き出した微細な単結晶試料を用いた測定セットアップを考えている。得られた情報をこれまでに蓄積したデータと統合することで、電子構造・フォノン分散に基づいた材料の熱伝導度設計・制御指針の構築、および、高性能な熱流制御デバイス、熱機能性材料の提案・開発まで遂行できると考えている。
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