2021 Fiscal Year Annual Research Report
膜内切断プロテアーゼによる新奇ペプチド性基質の切断反応から迫る休眠細胞の覚醒機構
Project/Area Number |
21J15841
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
横山 達彦 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 膜内切断プロテアーゼ / Small Membrane Protein / Persister / HokB / プロテオーム解析 / 鉄獲得系 / Anti-sigma factor / FecR |
Outline of Annual Research Achievements |
膜内切断プロテアーゼは、疎水的な脂質二重層内部でタンパク質の加水分解を行うユニークなプロテアーゼである。申請者の所属する研究室では、大腸菌が持つ膜内切断プロテアーゼRsePの機能解析を進めており、RsePがいくつかのSmall Membrane Proteins (SMPs; 約50 a.a.以下の一回膜貫通タンパク質)を切断しうることを見出していた。申請者は、in vivoおよびin vitroの両面からこれを再検証し、RsePが確かにSMPsを切断することを実証した。さらに、それらSMPsのうち、内在性Toxinであり、細胞の休眠(パーシスター化)を誘導することが知られているHokBに着目し、RsePがHokBを切断することでその毒性を抑制することを見出した。この結果は、RsePがHokBの切断を介して細胞の休眠状態を制御しうることを示唆するものである。 さらに当初の研究計画に加えて、プロテオーム解析による更なるRsePの未知基質・細胞機能の同定を試みた。その結果、RsePの新たな切断基質としてFecRを見出した。FecRは、大腸菌の鉄獲得系であるFecシステム遺伝子群の転写制御に関わる一回膜貫通タンパク質である。申請者はFecRタンパク質の動態を詳細に解析し、FecRが膜上で連続的な切断を受けること、さらにRsePがその最終ステップを担っており、RsePによる切断を受けて産生するFecRの細胞質断片が、Fecシステム遺伝子群の転写活性化に重要な働きをしていることを明らかにした。本年度はこれらの成果をまとめた論文を、J. Biol. Chem.誌に発表した。Fecシステムは、病原性大腸菌が尿路感染症や牛乳房炎を引き起こす上で重要な役割を担っている。本研究で得られた成果は、このような疾病の治療・予防薬の開発等に貢献し得るものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は申請計画に則り、RsePによるSMPsの切断をin vivoおよびin vitroの両面から実証した。また、それらSMPsのうちの一つであるHokBに着目し、生理機能解析も進めた。その結果、RsePはHokBを切断することで、HokBが誘導する(i)生育阻害(ii)細胞溶解(iii)ATP合成低下を、抑制することを見出した。 さらに、当初の研究計画に加えて、更なるRsePの未知基質・細胞機能を特定する目的で、rseP欠損株で野生型および活性変異型RsePを過剰発現し、それらの膜プロテオームを定量的に比較した。プロテオーム解析は、京都大学石濱泰教授らの研究グループとの共同研究により実施した。その結果を元に、RsePがFecRを切断することを新たに見出した。FecRを対象としたパルスチェイス解析や、FecRが制御する遺伝子群のレポーター解析等によって、(i)FecRが内膜において連続的な3段階の切断を受ける、(ii)うち2段階目の切断が鉄錯体シグナル依存的生じる、(iii)RsePは3段階目の最終切断を担い、そこで生じたFecR断片が転写制御因子であるFecIを活性化する、の諸点を明らかにした。これらの結果をまとめて、J. Biol. Chem.誌に発表した。 申請計画の順調なプログレスに加えて、新たなRsePの生理基質・機能の特定に至ったため、現在までの進捗状況は当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はまず、RsePによるSMPsの切断について、これまでに得られた結果をまとめ、論文として発表することを目指す。さらに申請計画に則り、RsePによるHokBの切断が、細胞の休眠やそこからの「覚醒」に及ぼす影響を解析する計画である。 さらに申請計画に加えて、FecR分子の動態解析も進める。申請者はFecRの連続的な切断が、鉄クエン酸錯体のシグナルに応答して進むことを見出している。次年度はこの多段階切断の制御メカニズムの解明も目指す。
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