2022 Fiscal Year Research-status Report
カントの徳倫理学に関する倫理学的・倫理思想史的研究
Project/Area Number |
21K00002
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
千葉 建 筑波大学, 人文社会系, 講師 (80400620)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | カント / 徳の義務 / ヴォルフ / バウムガルテン / マイアー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カントが晩年の『道徳の形而上学』で展開した徳論を「義務論的徳倫理学」と見定め、それが有する特徴と独自性を解明することを目的とするものである。 2022年度は、前年度に日本カント協会のシンポジウムで発表した内容を改定・増補した論文「カントの『道徳の形而上学』における徳理論の構造」を発表した。本論文は、従来の研究では必ずしも明確にされてこなかったカントの徳理論の構造を三つの要素から成るものとして明らかにした。その三つの要素とは、①意志の道徳的強さとしての徳、②道徳的目的に関わる徳の義務、③熟慮の徳である。本論文を通じて、カントの徳理論が「義務」をベースにしながらこれら三要素の相互関係によって規定されていることが、アリストテレス流の現代徳倫理学と区別される点であることが示された。 また本年度は、カントの徳論を彼に影響を与えた可能性のある同時代の徳論との対決という観点からいくつかのテクストを調査した。主に検討したのは、トマジウスの『道徳論入門』、またヴォルフ学派では、バウムガルテンの『第一実践哲学の原理』と『哲学的倫理学』、マイアーの『一般実践哲学』と『哲学的道徳論』であったが、とくにマイアーの『哲学的道徳論』がカントの徳論との関係でいくつか興味深い対比を示していることが分かった。それと並行して、カントの『道徳の形而上学』の第二部「徳論」の同時代における受容について当時の著作や雑誌を中心に調査した。その結果、第一部の「法論」に比して、「徳論」に関する反応は少なかったが、そのなかでシュヴァープによる批評がカントとヴォルフの徳論を比較したものになっており、本研究にとって重要な資料になることが判明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、当初の計画では、カントが道徳哲学講義のさいに教科書に用いたバウムガルテンの著作である『第一実践哲学の原理』と『哲学的倫理学』、およびそれらを詳論したマイアーの『一般実践哲学』と『哲学的道徳論』を考察し、彼らの議論とカントの議論との異同について学会発表や論文作成を行う予定であったが、彼らのテクストを読むこと自体に思った以上に時間がかかり、また単純にカントとヴォルフ学派の両者を比較しただけの論文では説得力に欠けることに思い至り、発表するかたちにまで持っていくことができなかったという点で遅れが生じてしまった。 しかし、若干軌道修正して、カント以前のテクストの読解と並行して、カントの『道徳の形而上学』の第二部「徳論」の同時代の受容を調査した結果、シュヴァープを始めとする何人かの著述家がカントの徳論をめぐって、ヴォルフ学派の徳論との対比において検討していることが明らかになり、彼らの議論を踏まえることによって、カントとヴォルフ学派の徳論の比較について見通しが得られることになった。 したがって、当初予定していた学会発表や原稿執筆ができなかったという点では遅れが生じてしまったが、計画当初には考えてもいなかった同時代におけるカントの徳論の受容に関する研究が開始し、またそれがヴォルフ学派の徳論との対比という当初の研究計画につながることが分かったため、現時点の進捗状況としては「やや遅れている」という評価になるが、研究の方向性としてはより具体的で実行可能なものになったと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、①カントの徳論をカントの同時代の思想史的背景に遡ってその独自性を検討すること、および②カントの義務論と徳論の特徴をカントのテクストの精読に基づいて再検討すること、という二本柱で推進していきたい。 2023年度は、主に①に関して、シュヴァープによるカントの徳論に対する批評を手がかりにして、カントの徳論とヴォルフ学派の徳論の異同を明らかにしたい。そのさい、カントだけではなく、ヴォルフやバウムガルテン、マイアーの著作、またシュヴァープが言及しているガルヴェの著作なども適宜参照しながら、カントとヴォルフ学派との間にある重要な違いを浮き彫りにすることを目指す。 2024年度は、主に②に関して、カントの義務論・徳論において重要なキーワードである「内的義務」や「自己に対する義務」、「不完全義務」といった用語によってカントが正確には何を意味していたのかを考察する。これらの用語は、ヴォルフ学派も含めて近代自然法論者が一般に用いていた術語であるが、カントがこれらの言葉を使うとき、どこまでが伝統を継承したもので、どこが革新的なのかについて検討する。こうした基礎的な作業を通じて、カントの義務論と徳論を正確に理解するとともに、そうした理解に基づいて、従来の研究の問題点を示し、正しい理解を示す作業を行う。 以上のように、カント以前の義務論や徳論の研究と、カント自身の義務論や徳論の再検討をともに行うことによって、最終的にカントの義務論と徳論の特徴と独自性を明らかにすることを目指す。
|