2021 Fiscal Year Research-status Report
ヘレニズム辺境のギリシア思想の東漸とインド思想からの還流、相互応酬の統合的復元
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21K00004
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
金澤 修 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員研究員 (60524296)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小島 和男 学習院大学, 文学部, 教授 (80383545)
宮崎 文典 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (50506144)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ギリシア倫理思想 / ヘレニズム / バクトリア / アイ・ハヌム / アショーカ王碑文 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者 金澤 修 雑誌論文:2022年3月『専修大学人文論集 第110号』(専修大学学会)所収「古代懐疑主義の起源をめぐってー比較思想史的観点からの考察ー」p.183-211.を執筆した。当該論文はヘレニズム期からローマ期にかけて広まり、キリスト教期には衰退したものの、ルネッサンス期に復活し、デカルトの哲学活動に影響を与えた古代懐疑主義の起源について、再考察を行ったものである。懐疑主義の中心的人物であるピュロンの活動について、仏教、ジャイナ教、インド懐疑主義の影響の有無をギリシア語文献、ディオゲネス・ラエルティウス『哲学者列伝』、ラテン語文献『アッティカの夜』、パーリ語仏典『ディーガニカーヤ』『マッジマニカーヤ』、ジャイナ教教義書『サルヴァ・ダルシャナ・サングラハ』を直接参照して比較考察したものである。 研究分担者 小島和男 雑誌論文:2022年3月『モナドから現存在へ:酒井潔教授退職記念献呈論集』(工作舎)所収「ソクラテスは何故プリュタネイオンでの食事を刑罰として申し出たのか」p.98-112.を執筆した。 研究分担者 宮崎文典 本基金の研究の中核となる文献の精査と、それに伴う問題点の指摘を随時行い、研究の中心となる令和四年度の研究推進のための基礎固めをおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究全体は予定通り「おおむね順調に進展している」と言えるだろう。 研究者代表者・金澤 修は「古代懐疑主義の起源をめぐって -比較思想史的観点からの考察-」を執筆した。当該論文は、ピュロンの哲学手法の起源を考察するものである。モンテーニュ経由とはいえ、デカルトに影響を与え、結果として彼に「我惟う、ゆえに我あり」という近代哲学の出発点を築かせたという点で重要な意義を持つ、古代懐疑主義の祖であるピュロン哲学の起源について検討した。紀元後3世紀のディオゲネス・ラエルティウス『哲学者列伝』に彼の哲学をインドと示唆する箇所があり、これに基づいて研究代表者は同時代のインド思想との比較を行った。このとき研究代表者は、インド思想を原文で読解し、ギリシア語、ラテン語文献を中心に行われてきたこれまでの研究手法とは大きく異なるアプローチを行った。このような研究は、本課題が目指し、またその中心としている手法であり、その限りで研究開始年度に上記のような研究が実績を伴って行われたことは重要であり、研究は「おおむね順調に進展している」目安となるだろう。 研究分担者・小島和男は、『モナドから現存在へ:酒井潔教授退職記念献呈論集』(工作舎)所収「ソクラテスは何故プリュタネイオンでの食事を刑罰として申し出たのか」を執筆した。本論文は本研究が軸足の一つとして重要視している古典ギリシア期の哲学の態度を明確化するものであり、その意味では、研究開始年度に、上記のような研究が行われたことは、次年度以降の実績に向けて重要な意義を持っていると言えるだろう。 研究分担者・宮崎文典は、ギリシア倫理学の文献の講読と精査を行った。このような実績は、次年度以降の研究の中核となるべきものであり、そのような基礎的な作業が研究開始年度に適切に行われたことも、本研究が「おおむね順調に進展している」ことを裏付けるものだと言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は3ヶ年に渡るものであり、2022年度はその2年目に当たる。これについて、個別的観点、および研究全体の観点を交えて記すならば以下の通りである。 研究代表者は今年度中にバクトリア付近で発見されたギリシア語・アラム語記載の「アショーカ王碑文」の論文を電子媒体で発表する予定である。この碑文の特殊性は、パーリ語(マガダ語)を原点にして作成されたものを、紀元前3世紀のバクトリアの情勢に合わせて、ギリシア語とアラム語に翻訳されたところにある。既に研究代表者はこのバイリンガル碑文のギリシア語部分の研究を、ギリシア語碑文翻訳者の知的背景、および他のギリシア語版アショーカ王碑文との比較研究をおこなってきたが、アラム語部分の内容の精査、およびアラム語翻訳者の知的態度の考察は初めてである。当該碑文のアラム語箇所は、作成者が旧アケメネス朝ペルシア由来のペルシア語話者と推定され、非常に変則的な文法で刻まれていることなど、ギリシア語碑文やパーリ語(マガダ語)原点との対応など非常に難解なものである。しかしながら、この碑文をギリシア語碑文やパーリ語(マガダ語)との比較を通して明らかにすること、また旧アケメネス朝ペルシアの文化的、宗教的背景をもとに考察することは、本研究の「バクトリア周辺での文化・思想的な実態を統合的な見地から復元する」という目的に資するものであると言えよう。 2022年にアメリカで開催される、第23回国際プラトン学会に参加する予定で2021年度は準備していたが、感染症拡大という事態を前にして、現時点では参加は不透明である。仮に状況が改善して参加が可能となれば、海外のプラトン研究者、プラトン主義研究者と、本研究の課題を中心にして意見交換を行う予定である。
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Causes of Carryover |
数度にわたる学会および研究会等への出席および口頭発表を予定していたが、感染症拡大のため、多くの学会が電子的機器を用いた遠隔開催となったため、当初予定していた出張費等への支出が大幅に減少したためである。
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Research Products
(3 results)