2022 Fiscal Year Research-status Report
ヘレニズム辺境のギリシア思想の東漸とインド思想からの還流、相互応酬の統合的復元
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21K00004
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
金澤 修 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員研究員 (60524296)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小島 和男 学習院大学, 文学部, 教授 (80383545)
宮崎 文典 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (50506144)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ギリシア倫理思想 / ヘレニズム / バクトリア / アイ・ハヌム / アショーカ王碑文 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者 金澤 修 雑誌論文1:2023年3月『専修大学人文論集 第112号』(専修大学学会)所収「アプレイウス「擬アリストテレス『宇宙について』」ラテン語訳の意義と影響」p.17-44.を執筆した。当該論文はギリシア語で書かれている擬アリストテレス『宇宙について』が、二世紀の中期プラトン主義者アプレイウスによってラテン語に翻訳された理由を、当時のギリシア語、ラテン語およびフェニキア語話者の文化的背景や言語潮流を分析し、同時に当該翻訳に認められる誤訳とされる箇所の実質的な検討を言語のギリシア語と対照することで検討した。 雑誌論文2:2023年3月『哲学誌 第65号』(東京都立大学哲学会)所収「「我々」とは誰のことか?-Enn., III-8(30)『自然、観照、一者について』第九章の位置づけを巡って-」p.81-109.を執筆した。当該論文は、プロティノスによる、いわゆる「一大著作」の一部を構成する『自然、観照、一者について』冒頭で語られる「我々」が、「一大著作」全体の中でどのような意味を持つかについて、中期プラトン主義者ヌメニオス、あるいは同時代のグノーシス主義の教説と比較して検討した。 書評:伊東俊太郎『比較思想研究 第49号』(比較思想学会)所収「人類史の精神革命 ソクラテス、孔子、ブッダ、イエスの生涯と思想(中央公論新社)」p.151-156.を執筆した。比較思想および比較文化の権威である伊東俊太郎の上掲書籍の書評を行った。 研究分担者 宮崎文典 翻訳:2022年8月『古代哲学入門:分析的アプローチから』(クリストファー・シールズ(著)、文景楠・松浦和也・宮崎文典・三浦太一・川本愛(共訳)、勁草書房)を翻訳した(翻訳担当箇所:第二章「ソクラテス」pp. 47-88)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は3ヶ年に渡るものであり、2023年度はその最終年度に当たる。研究代表者は今年度中にバクトリア付近で発見されたギリシア語・アラム語記載の「アショーカ王碑文」を含めた研究発表を学会において行い、さらにその論文を電子媒体で発表する予定である。この碑文の特殊性は、パーリ語(マガダ語)で作成されたものを、紀元前3世紀のバクトリアの情勢に合わせて、ギリシア語とアラム語に翻訳されたところにある。既に研究代表者はこのバイリンガル碑文のギリシア語部分について、ギリシア語碑文翻訳者の知的背景、および他のギリシア語版アショーカ王碑文との比較研究をおこなってきたが、さらに踏まえてギリシア語とアラム語部分の関係、さらにパーリ語(マガダ語)との三言語の翻訳関係の精査や翻訳上の態度の相違、およびギリシア語やアラム語翻訳者の知的態度の考察、さらにその用語のギリシア哲学との関係についての考察を行うのは初めてである。当該碑文のアラム語箇所は、作成者が旧アケメネス朝ペルシア由来のペルシア語話者と推定され、非常に変則的な文法で刻まれていることなど、ギリシア語碑文やパーリ語(マガダ語)原点との対応など非常に難解なものである。しかしながら、この碑文をギリシア語碑文やパーリ語(マガダ語)との比較を通して、さらに使われているギリシア語の術語から翻訳者の思想的バックグラウンドに至るまでを考察すること、さらにその際にインドやギリシアのみならず旧アケメネス朝ペルシアの文化的、宗教的背景をも視野に入れて考察することは、本研究の「バクトリア周辺での文化・思想的な実態を統合的な見地から復元する」が目的に資するものであると言えよう。 さらに今年度は、全体を総括する研究会を行う予定である。その際には研究代表者、研究分担者はもとより、他の分野の研究者とも連携し、学際的視点から本科研の総括を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は3ヶ年に渡るものであり、2023年度はその最終年度に当たる。研究代表者は今年度中にバクトリア付近で発見されたギリシア語・アラム語記載の「アショーカ王碑文」を含めた研究発表を学会において行い、さらにその論文を電子媒体で発表する予定である。この碑文の特殊性は、パーリ語(マガダ語)で作成されたものを、紀元前3世紀のバクトリアの情勢に合わせて、ギリシア語とアラム語に翻訳されたところにある。既に研究代表者はこのバイリンガル碑文のギリシア語部分について、ギリシア語碑文翻訳者の知的背景、および他のギリシア語版アショーカ王碑文との比較研究をおこなってきたが、さらに踏まえてギリシア語とアラム語部分の関係、さらにパーリ語(マガダ語)との三言語の翻訳関係の精査や翻訳上の態度の相違、およびギリシア語やアラム語翻訳者の知的態度の考察、さらにその用語のギリシア哲学との関係についての考察を行うのは初めてである。当該碑文のアラム語箇所は、作成者が旧アケメネス朝ペルシア由来のペルシア語話者と推定され、非常に変則的な文法で刻まれていることなど、ギリシア語碑文やパーリ語(マガダ語)原点との対応など非常に難解なものである。しかしながら、この碑文をギリシア語碑文やパーリ語(マガダ語)との比較を通して、さらに使われているギリシア語の術語から翻訳者の思想的バックグラウンドに至るまでを考察すること、さらにその際にインドやギリシアのみならず旧アケメネス朝ペルシアの文化的、宗教的背景をも視野に入れて考察することは、本研究の「バクトリア周辺での文化・思想的な実態を統合的な見地から復元する」が目的に資するものであると言えよう。 さらに今年度は、全体を総括する研究会を行う予定である。その際には研究代表者、研究分担者はもとより、他の分野の研究者とも連携し、学際的視点から本科研の総括を行う予定である。
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Causes of Carryover |
数度にわたる学会および研究会等への出席および口頭発表を予定していたが、感染症拡大のため、多くの学会が電子的機器を用いた遠隔開催となったため、当初予定していた出張費等への支出が大幅に減少したためである。
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