2021 Fiscal Year Research-status Report
17世紀「デカルト派医学」の展開に見る近世初頭の生命論哲学の解明
Project/Area Number |
21K00008
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
香川 知晶 山梨大学, 大学院総合研究部, 医学研究員 (70224342)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | デカルト派医学 / デカルト / レギウス / 人間論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は17世紀における「デカルト派医学(medicines cartesiennes)」の展開を跡づけ、近世初頭の生命論がどのように形成されてきたのかを明らかにすることを目標としている。 「デカルト派医学」という言葉は1643年が初出だとされる。当時、医学に関わるデカルトの著作としてはまだ『方法序説及び三試論』(1637年)が刊行されたにすぎなかった。にもかかわらず「デカルト派医学」という言葉が、デカルトの「新哲学」に「かぶれた」医学者(デカルトの伝記作家バイエの言い方)、すなわちユトレヒト大学医学教授レギウスを揶揄するために使われたのであった。レギウスはデカルトの医学思想に傾倒し、ユトレヒトの教授職を得るものの、その後唯物論的形而上学へと移行し、デカルトと激しく対立したことで知られ、その観点からそれなりに研究の対象となってきた。しかし、レギウスは若い頃にパドヴァに留学し、いわゆる医物理派(iatrophysical school)の系列につながる医学者であり、多くの著作を著している。その観点からレギウスの医学思想を検討することは従来十分に行われてきたとはいえない。そのため、本年度では、デカルトへの献辞がついたレギウスの『人間精神小論(Brevis explicatio mentis humanae)』(1648年)の内容を精査してきた。しかし、コロナ禍のために予定していた調査とフランスの共同研究予定者との打ち合わせが不可能となったこともあり、検討は必ずしも十分ではなく、なお継続中である。ただし、本研究との関連で企画した日仏哲学会春季大会シンポジウム「17・18世紀における哲学と医学」は予定通り2022年3月19日(オンライン)に開催できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
17世紀におけるデカルト派医学の展開の跡づけを目指す本研究では、基本的文献や資料に関しては、かなり多くの文献が電子化され、ネットで公開されるようになったとはいっても、現地(イタリア・フランス・オランダ)での調査を当地の研究者の助言も受けながら実施することが不可欠である。しかし、現在の新型コロナ感染症の流行状況が原因で、現地調査はいまだに実施するに至っていない。また協力を依頼している海外の研究者が参加するオンラインのシンポジウムは2度(2021年6月18日、Colloque international: Quatre atlas de myologie inedits du Siecle d’or neerlandais;2022年3月31日、Centre d’etudes cartesiennes: Philosophie et medicine, Sante, maladie, salut a l’epoque cartesienne)にわたって視聴する機会はあったものの、直接の打ち合わせを詳細に行うには至っていない。そのため、現地調査なしに可能な文献調査に重点を移さざるを得ず、当初の予定は大幅に遅れている状況にある。ただし、そうした観点から対象をレギウスに絞った形での検討はすでに開始しており、従来の研究史の関連文献も含めた検討に関しては、順調に実施することはできている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は「デカルト派医学」の展開を①デカルトが没するまで(1650年まで)と②それ以降の17世紀後半とに大きく二つの時期に分けて検討する。 ①に関しては現在検討を行っているレギウスとともに、デカルトと親交があり、医化学派(iatrochemical school)を代表するライデン大学教授の医学者シルヴィウスの医学思想を取り上げ、その人間概念を中心としてレギウスと対比する。 ②のデカルト没後以降の17世紀後半の動向としてはクレルスリエがデカルトの遺稿を整理し、1664年に『人間論及び胎児形成論』として刊行し、多方面への影響を及ぼしたことが重要である。そこで(ア)『人間論』のテキストをめぐる問題、(イ)デカルトの新哲学批判の激化をめぐる問題、(ウ)ニコラ・ルメリやダニエル・ダンカンといった医学者を例に医化学派を中心とするデカルト派医学の展開の3つの視点のもとに検討を進めたい。こうした研究目標に合わせて、現地視察を早期に実施したいと考えている。 ただし、現在の研究の進捗状況に若干の遅れが生じていることからすると、本研究ではとりあえず(ア)の問題に検討の中心を置かざるを得ない。ただし、クレルスリエの刊本は『人間論』と『胎児形成論(いわゆる人体の記述)』という執筆時期のまったく異なる草稿をまとめた形になっており、テキスト的に問題を含んでいる。ラ・フォルジュの役割も含め、その点をめぐる従来の研究をまずは整理しておく必要がある。そこで、新型コロナ感染症の感染状況によるものの、デカルトの『人間論』の校訂版の刊行で知られ、本研究の研究協力者をお願いしてあるパリ・ソルボンヌ大学デカルト研究センターのAnnie Bitbol-Hesperies博士を日本に招聘し、『人間論』のセミナーを開催したいと考えている。
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Causes of Carryover |
初年度である本年度に海外調査を実施する予定であったが、コロナ禍のために実施不可能となった。新型コロナ感染症の対象地域(イタリア・フランス・オランダ等)に感染状況に合わせて次年度内には実施する予定である。
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Research Products
(6 results)