2023 Fiscal Year Annual Research Report
『大学定本』『易経古義』諸稿本の分析による伊藤仁斎倫理思想の研究
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21K00010
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
遠山 敦 三重大学, 人文学部, 教授 (70212066)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 伊藤仁斎 / 大学定本 / 易経古義 |
Outline of Annual Research Achievements |
伊藤仁斎は、その学の成立期において既に「『大学』は孔子の遺書に非ざるの弁」を著し、『大学』が孔孟の本旨に適わないものであることを十証に渡って指摘しており、本研究の対象となる『大学定本』においてもその批判に変化は見られなかった。従来の仁斎理解においては、仁斎のそうした『大学』否定の側面のみが論じられてきたが、しかし、本研究ではそうした傾向に対して、仁斎が『大学』を独自の理解に基づき、肯定的にも理解していた点を明らかにし得た。その主な論点として特筆すべきは、一:『大学』を三綱領・八条目という基本構造において理解していた朱子学の理解に対して、「『大学』は三綱領有って八条目無し」とし、かつ「三綱領」の「至善」を「仁敬孝慈信」という日常的徳目を意味するものと捉えたこと、二:従来の「八条目」については、「格物」の格を「正」、「物」を「物に本末有りの物」と捉え、「物格」から「天下平」に至る過程を「止於至善の方」とし、特に「斉家治国平天下に至りては津津味有り」と評価していたこと、の二点が挙げられる。 『周易』評価については、仁斎の晩年定論が伺える林本『童子問』に見られる易経理解が、既に『易経古義』最古稿本(元禄中葉成立)にも明確に現れていたことが確認できた。即ち、一:『易経』十翼のうち繋辞伝・説卦伝を「卜筮の書」として否定的に捉え、対して彖伝・象伝を「儒家の易」として積極的に評価すること、二:彖象二伝を「陰陽消長の理」を明らかにすることを通じて日用人倫の動態理解に資するものとしたことである。そこには、繋辞伝をその形而上学の源泉と捉えた朱子学に対して、あくまでも『周易』を人倫日用の次元で理解しようとする仁斎の基本的姿勢を見て取ることができた。
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