2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00015
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Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 英明 中央学院大学, 商学部, 教授 (70192599)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 自動運転 / 自律型機械 / 道徳的行為者 / 責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
論文「道徳的行為者としての自動運転車」において、自動運転車に関する責任の問題を考察した。自動運転車に関して、交通事故が生じた場合の法律的責任のあり方が問題となる。民事責任については、現行の事故補償制度で対応可能か否かが問題となり、刑事責任については、人間が運転していない状態で事故が生じたとき誰が処罰されるのかが問題となる。それはAIへの帰責が可能かという問題とも関係する。しかし、「責任」「自律」「行為者」といった言葉は多義的で、議論の混乱もみられる。 自律型機械の道徳性については、たんなる機械として扱うのか道徳的行為者として扱うのかが問題となる。ルチアーノ・フロリディは、道徳的行為者性を責任から切り離し、道徳的行為者の範囲を自律型機械にも拡大すべきだとする。これに対して「責任という概念の粗っぽいとらえ直し」であるとか、「誰が責任を負うべきかという問題が考慮されなくなるおそれがある」といった批判もおこなわれている。 しかし、瀧川裕英による「責任」概念の分析に基づいて考察すれば、道徳的行為者としての自律型機械は、有責責任はあるが負担責任を負わせることのできない存在とみなすことができる。責任概念を明確に分類すれば、責任をとれないものに責任を認めることは概念的誤謬とはいえない。このような責任の分類は、自動運転車の事故に関して、原因究明がいかに困難な場合でも被害者の救済・保護がはかれることにつながると考えられる。 「因果の空間」において「出来事」として把握されれば、機械の責任が問われることはない。しかし、自律型機械が道徳的善や悪をもたらしたとき、それを理由にもとづく正当化という観点から「行為」として把握することもできる。「理由の空間」に位置づけられたとき、その責任について論じることが可能となる。フロリディが指摘しているように、それによって責任概念をさらに詳細に分析することが必要となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
自動運転の倫理的課題の考察にあたって、最初に検討課題としたのは、事故が起こった時の責任の問題である。自動運転車を自律型機械とみなす場合、その責任をどうとらえるかが問題となる。2021年度は、この問題に関する資料を収集し、その成果を論文「道徳的行為者としての自動運転車」としてまとめた。 次に、こうした責任論と密接に関係するといわれる「社会受容性」の問題に取り組んだ。「社会受容性」という用語は、原子力のような発電技術の実用化に際して用いられるようになったが、現在は、再生エネルギーの受容など、幅広く社会における技術の受容を意味する表現として用いられている。社会的受容に関しては、風力発電に関して多くの先行研究があり、それらの資料の検討を進め自動運転技術の受容との関連を考察した。現在、その成果を取りまとめているところである。再生エネルギーの社会的受容に関しては、配分的正義や手続き的正義との関係を指摘されているが、具体的な利害については、利益と負担の内容は多様であり、利害関係者の範囲も異なることになる。 今後は、以上の成果を踏まえて、自動運転に関するルールの設定に際して、自動運転技術がもたらす具体的利害の内容を検討し、倫理学的な視点からの検討が必要な課題をより詳細に明らかにしてゆく。 具体的利害や具体的問題の検討に入る前に、責任等に関する原理的な考察をおこなったため、課題の検討については、やや遅れ気味である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に検討した責任に関する議論や責任論とも密接に関係する社会受容性の問題を踏まえて、今後は自動運転に関するルールの設定に際して、倫理学的な視点からの検討が必要な課題をより具体的に明らかにしてゆく。 責任論の考察によって、利益と負担の均衡に関して、その具体的内容を明確にする必要性を示すことができる。利益としては、交通事故による死傷者の減少、安全かつ円滑な道路交通の実現、移動の利便性や快適性の向上、地域活性化、自動車関連産業の活発化や産業競争力の向上といった社会的な利益が期待されるほか、個別の企業や事業者にとっての経済的利益、運転の負担軽減のような個々の利用者の利益、事故率低減による保険料の低下といった自動車保有者の利益も考えられる。 他方、負担については、道路環境整備や通信インフラ整備、サイバーセキュリティなどの安全確保、関連する法整備等々に関するコストが想定される。企業は研究開発や人材確保のためのコストを負担しなければならない。自動走行技術を利用する事業者や個人は、購入や維持管理の費用を支払わねばならない。こうした経済的な負担以外に、自動運転車と非自動運転者が混在するような状況において、むしろ交通渋滞が増加する結果になったり、自動運転車との意思疎通が不可能となることが人間の運転者にとって負担となったりする可能性も考えられる。乗員の安全が優先された結果、歩行者や自転車が犠牲になれば、生命や健康の喪失という負担が発生する。交通事故の刑事責任や民事責任は、加害者に負担を負わせるものであるが、その答責領域を拡大すれば、負担が増大されることになる。 利益や負担に関する抽象的な理解だけでは、具体的な利益と負担の均衡を実現することはむずかしい。今後は具体的な利益と負担の内容を明らかにしつつ、どのようにその均衡がはかられるべきかを国内外の資料・情報を収集し検討をおこなう。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により学会がオンライン開催となったため、旅費の支出がなかったため次年度使用額が生じた。2022年度は、自動運転に関するルールの設定に際して、倫理学的な視点からの検討が必要な課題を明らかにするために、国内外の資料・情報を収集し検討をおこなうとともに、研究機関に赴き調査を実施する予定である。とりまとめた課題は、論文として公表する。助成金は、以上の資料収集および調査研究旅費に使用する。
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Research Products
(1 results)