2021 Fiscal Year Research-status Report
当事者性とその表現―精神障害当事者のアート活動についての哲学的研究
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21K00020
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Research Institution | Sagami Women's University |
Principal Investigator |
伊東 俊彦 相模女子大学, 人間社会学部, 准教授 (00634841)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アール・ブリュット / 障害 / 当事者性 / 表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、新型コロナウイルス流行の影響が続いていたため、当初計画していた北海道浦河町やえりも町でのフィールドワーク調査を実施することができなかった。 そのため、状況を見ながらアール・ブリュット関連施設への訪問やzoomによるインタビュー調査などを継続するとともに、文献調査を進めることで、今後の研究を進める基盤を整理することを試みた。 アール・ブリュット関連施設への調査としては、8月に岩手県花巻市の「るんびにい美術館」へ訪問するとともに、アール・ブリュット活動に携わる方々とzoomによる勉強会を継続している。それを通じて、従来障害当事者の芸術表現活動を表すものとして定着してきた「アール・ブリュット」という表現が、実際に活動に関わる方々にとっては実態に合わない言葉になっている可能性を見出すと同時に、当事者の方々の表現をどのように位置づけるかについて活動に携わる方々それぞれの「語り」の多様なあり方を見出すこととなった。 また、アール・ブリュット関連の文献調査を継続しつつ、当事者の営みを解釈するとはどのようなことなのかについて理論的に明らかにするため、フランスの人類学者であるレヴィ=ブリュールの思想に着目し、彼が自らが属する文化とは異なる文化の営みの理解について展開した思想を調査・検討した。それを通じて、彼の思想が相対主義的な実証主義の立場から、解釈学的な人間学へと変化していたことを明らかにし、論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、新型コロナウイルスの流行が収束せず、断続的に緊急事態措置やまん延防止等重点措置が発出されていたためフィールドワーク調査に大きな制約がかかった。そのため、当初考えていた北海道での調査を実施することができず、予定していた研究活動を十分遂行することができなかった。上述のようにzoomを使った勉強会を継続したものの、アール・ブリュット活動が行われている現場において、その活動を行う人々が生活の中でその活動をどのように意味づけ実践しているかを探るという本研究の目的に照らして言えば、そうした場を実際にフィールドワーク調査できなかった点は不十分であった。その点で、「やや遅れている」と評価した。他方、その間に関連する文献調査を進めるとともに、アール・ブリュット活動に携わる方々との勉強会を継続し、今後の研究の材料を収集しえた点では一定の進捗はあったと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍による研究活動の制約は低減していくことが予想されるものの、予測できない部分も残るため、状況に合わせて以下のような仕方で研究を進めていくこととする。 まず、状況が許すようになったかを見極めて、当初の予定であった北海道浦河町およびえりも町のフィールドワーク調査を行う。調査の主な場所として想定した診療所において、当事者の方々がどのようにコロナ禍と向き合い、それを乗り越えていったのかを調査するとともに、その中でアール・ブリュット活動がどのような位置づけを得ているのかを調査する。また、農の営みなど、従来必ずしもアートとは名指されなかったような活動も含め当事者の活動がどのように意味づけられているのかを調査し、それを通じて、「当事者性」と「表現」の関係という本研究の根幹の問いを明らかにするためのデータ収集を行っていきたい。 加えて、上記調査で得られたデータを整理・分析するとともに、その他のアール・ブリュット関連施設の調査、および文献調査やzoomによる調査を状況に応じて進め、本研究の根幹の問いを明らかにすることを目指したい。
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Causes of Carryover |
2021年度は、新型コロナウイルスの流行が収束せず、断続的に緊急事態措置やまん延防止等重点措置が発出されていたためフィールドワーク調査に大きな制約がかかった。結果として、当初予定していた北海道浦河町、えりも町でのフィールドワーク調査ができなかった。当該年度の研究経費として、このフィールドワーク調査のための旅費その他の経費がメインの使用目的となっていたため、その部分の経費の消化ができなかったのが次年度使用額が生じた理由である。今後の使用計画としては、フィールドワーク調査の回数、日数等を調整することを通じて当初予定していた研究の遂行に努めるとともに、経費の使用を進める予定である。
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