2022 Fiscal Year Research-status Report
当事者性とその表現―精神障害当事者のアート活動についての哲学的研究
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21K00020
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Research Institution | Sagami Women's University |
Principal Investigator |
伊東 俊彦 相模女子大学, 人間社会学部, 教授 (00634841)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アール・ブリュット / 障害 / 当事者性 / 表現 / 当事者 / 精神障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで新型コロナウイルス流行の影響により特にフィールドワーク調査に大きな制約がかかっていたが、2022年度からは当初予定していた調査を徐々に再開することができた。 2022年8月と2023年3月には北海道浦河町およびえりも町で各々1週間程度のフィールドワークを行い、調査先の精神科診療所に集う精神障害の当事者の方々によって行われている活動を、それを支援する診療所のスタッフの活動とともに調査を行った。また、当事者によるアート活動の現場などを調査すると同時に、当事者の方々を対象に哲学対話の実践を試みることで、当事者の方々の語りや表現の場に実践的に関わることを試みた。 加えて、昨年度から実施しているアール・ブリュット活動に携わる方々とのzoomによる勉強会も継続し、障害のある方の支援の場においてアートが持つ意味を調査した。それを通じて、障害を持つ方が行うアート活動を支援している方それぞれが、自らの活動をどのように意味づけ実践しているか、その「語り」の重要性を実感した。そこで、そうした「語り」をインタビューとして残すため、岩手県花巻市の「るんびにい美術館」のアートディレクター板垣崇志氏へインタビューを行い、それを分析することによって、障害のある方の表現活動とその意味が「肯定」という言葉で理解されうることを明らかにした。このインタビュー調査の結果は、それに対する分析を付して、2023年度中に発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は新型コロナウイルスの流行によって調査に大きな制約がかかっていたが、上述のように、2022年度より予定していた調査活動を徐々に再開することができている。また、アール・ブリュット活動に携わる方々とのzoomによる勉強会も継続し、支援の場においてアート活動がどのように意味づけられ実践されているかについて知見を蓄積することができた。その点で、2022年度の研究の進捗状況は順調であると考えているが、2021年度の調査の遅れを十分取り戻すには至っていないので、「やや遅れている」と評価した。他方、その間も継続して関連する文献調査を進めるとともに、上述のように、「るんびにい美術館」アートディレクター板垣崇志氏へのインタビューを実施し、「肯定のプロセス」という言葉で当事者のアート活動の意味の一端を明らかにすることができた。このように、アール・ブリュット活動の現場を調査し、それが現場においてどのような意味づけをされているかについて今後の研究の土台となる材料を収集しえた点では一定の進捗はあったと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り北海道浦河町およびえりも町のフィールドワーク調査は継続して行っていく予定である。調査の主な場所として想定した診療所においてこれまで継続して行われてきたアール・ブリュット活動と共に、「カフェデモンク」など当事者によって行われている他の活動についても並行して調査を行うことで、そこにおいて「当事者性」がどのような意味を持っているかを調査する。また、そうした場への実践的な関わりの試みとして、哲学対話などの実践を行うことも継続して試みていきたい。また、支援者がアート活動をどのように意味づけ実践しているのか、その意味を「語り」を通じて析出していくことの重要性が明らかになったので、支援者へのインタビュー調査も継続して行う予定である。加えて、上記調査で得られたデータを整理・分析するとともに、その他のアール・ブリュット関連施設の調査、および文献調査やzoomによる調査を進め、本研究の根幹の問いを明らかにすることを目指したい。
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Causes of Carryover |
2022年度は、概ね当初予定していた北海道浦河町、えりも町でのフィールドワーク調査を実施できたものの、2021年度に断続的に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されフィールドワーク調査に大きな制約がかかった影響が持ち越されている。本研究は研究経費として、フィールドワーク調査のための旅費その他の経費がメインの使用目的となっていたため、その部分の経費の消化ができなかった2021年度の次年度使用額の影響が十分解消されるに至っていない。今後の使用計画としては、フィールドワーク調査の回数、日数等を調整することを通じて当初予定していた研究の遂行に努めるとともに、経費の使用を進める予定である。
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