2021 Fiscal Year Research-status Report
マックス・ヴェーバーとマルティン・ハイデガーによる近代合理主義批判の比較考察
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21K00023
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Research Institution | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
Principal Investigator |
轟 孝夫 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 人文社会科学群, 教授 (30545794)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | マルティン・ハイデガー / マックス・ヴェーバー / エトムント・フッサール / 価値判断を交えない学問 / 民族のための学問 / 学問の危機 / 存在への問い / ナチス |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度はハイデガーの「存在への問い」の学問論的含意を明らかにすることを試みた。彼の存在への問いは、学問は価値判断を交えるべきではないとするマックス・ヴェーバーの自由主義的学問観に対抗して、本来的な学問は存在者の存在を主題化するものであり、つまり存在によって拘束されべきことを求めていた。こうした彼の学問論的立場はヴェーバー流の学問論を嫌悪し「民族のための学問」を求めていた大学生たちに歓迎され、ハイデガーは時代の寵児となったのだった。 ヴェーバーの自由主義的学問観に強く反発していた学生たちは、当時台頭しつつあったナチスの民族主義に共感し、そこへと流れ込んでいった。彼らはナチスが1933年に政権を奪取するとともに大学のナチ化の先兵となったが、ハイデガーはそうした学生たちの輿望を担う形で学長に就任したのだった。ハイデガーのナチス加担は彼の哲学の学問論的なスタンスに根ざしているのである。 こうした研究成果を21年10月末に行われた哲学会第60回研究発表大会ワークショップ「ハイデガー哲学の政治性」において「ハイデガーのナチス加担――その学問論的背景」という題目で発表し、品川哲彦氏と討論を行った。同発表は品川氏の発表、ならびにオーガナイザーの古荘真敬氏の質問とそれらに対する私の回答とあわせて、オンラインジャーナル『倫理学論究』(関西大学倫理学研究会)(https://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~tsina/kuses/kuses.htm)で公開され、広く一般読者の閲覧に供されている。この質疑応答においてハイデガーとヴェーバーの学問論的立場それぞれの特色についてより立ち入った議論が行われるとともに、フッサールの「学問の危機」をめぐる学問論的考察との対比にまで議論が及び、1920年代から30年代にかけてのドイツの学問論的議論の付置をより包括的に明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね計画通りに進捗した。早速、学会ワークショップで研究成果を発表し、そこで本邦のすぐれた研究者との討論を行うことで、自身の研究内容の吟味を行うことができた。さらにこのワークショップの内容をオンラインジャーナルで公開する機会が与えられたが、その際にそれぞれの発表に対する質疑応答を繰り返し、そのやり取りもあわせて発表したので、ジャーナルの特集号は異例の充実した内容となった。なお発表媒体がオンラインジャーナルであるため一般読者も閲読可能であり、研究成果の社会への還元という点においても大きな成果を収めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでおおむね順調に計画が進み、しかも研究成果の社会への還元も早い時期から行うことができているので、今後もこのまま研究を進めていくつもりである。現在はハイデガー哲学全般についての入門書を執筆中で、そこに本研究成果の一端も取り込んでいるので、この刊行をとおして、研究成果の一般社会への公開をさらに進めていく。また今年度はマックス・ヴェーバーの学問論について、講演「職業としての学問」以外の著作についての検討も進めるとともに、ハイデガーの師フッサールの学問論なども視野に入れることにより、1910年代から30年代に至るまでのドイツにおける学問論的論議の付置をより具体的に捉え、そのことをとおして同時代のドイツの精神史的状況を明らかにすることを試みたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で予定していた国内、国外の出張が一切できなかった。今年度はコロナ禍をめぐる状況の好転を見計らって、国内、国外への出張を再開することによって、研究費を使用したい。
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Research Products
(4 results)