2021 Fiscal Year Research-status Report
Possibilities of philosophical dialogue in mental health and medical welfare by drawing on the efforts in Italy
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21K00028
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
西村 高宏 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (00423161)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近田 真美子 福井医療大学, 保健医療学部, 准教授 (00453283)
BALDARI Flavia 東京大学, 東京カレッジ, 特任研究員 (90823435)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 哲学対話 / 精神保健医療福祉 / 哲学プラクティス / 臨床哲学 / 哲学カフェ / 精神医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1980年代以降活発になりつつある「哲学プラクティス」の考え方に基づき、(1)精神保健医療福祉領域における「哲学対話実践」の〈非治療的〉アプローチの可能性を、心理療法などによる〈治療的〉アプローチとの比較をとおして理論的に検証するとともに、(2)実際に地域の精神保健医療福祉施策のうちに哲学的な対話実践を挿し込み、独自の精神保健医療福祉活動を展開しつつあるイタリアでの試みの詳細を、現地の医療従事者や当事者、家族会、さらには哲学研究者やプラクティショナーなどとの綿密なネットワークをもとに明確化し、その可能性の問い直しも含めて日本国内に紹介することである。 当該年度では、今後上記2つの目的に向けた作業を円滑に進めていくための下準備となる研究・調査活動を行った。具体的には、目的(1)に関連するものとして、精神保健医療福祉領域において「哲学カウンセリング」などの対話実践がどういった意味をもつものか、すなわち心理療法などの〈治療的〉アプローチとはどういった違いがあるのかについて早くから考察を企ててきたPeter B. RaabeやPeter Koestenbaum、Ran Lahav、Gerd Achenbach、Eckart Ruschmann、そしてShlomit Schusterなどの考えを整理するとともに、それらに対するイタリアの哲学者やプラクティショナーたちの捉え方をマッピングする作業を行った。また、目的(2)に関しては、今後、イタリアの研究者たちと協働で行う予定のトリエステなどでのフィールドワーク調査がスムーズに実行できるように、科研スタッフ内で、本科研の「研究計画書」などをイタリア語に翻訳する作業を行い、イタリアの研究協力者などとの研究目的の共有および綿密な連携体制を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、今後、イタリアの研究者や哲学プラクティショナーたちと協働で行うフィールドワークを円滑に行うための下準備となるの作業を中心に行った。また、上記フィールドワークへの準備作業と並行して、研究分担者および研究協力者個々人で、イタリアの哲学プラクティスに関連する書籍などを購入し、詳細な文献研究を開始した。具体的な名前を挙げれば、Umberto Galimberti(La casa di psiche. Dalla psicoanalisti alla corsulenza filosofica)、Luciana Regina(Conselenza filosofica: un fare che e pensare)、Pier Aldo Rovatti(La"filosofia puo curare?)、Davide Miccione(La consubnza filosofica)、Neri Pollastri(Consulente filosofico cercasi)、Moreno Montanari(La filosofia come cura - Percorsi di autenticita)などである。 さらに、イタリアの精神保健の現状に精通している研究協力者の小村絹恵をとおして、2021年11月以降大きなの変貌を遂げつつあるトリエステの精神保健医療サービスの動向についても綿密な情報共有も行った。トリエステにある4つの精神保健福祉センターを2つに統合する案や開館時間の短縮、人的資源の削減などもあり、これまでとは異なり、北イタリアの精神保健医療を取り巻く制度的な環境は危機的な状況にある。このような制度的な変革についても、イタリアの医療従事者や関係者たちとの綿密なやりとりを継続的に行い、常に情報を最新のものにアップデートできる体制を整えた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、大まかに以下2つのアプローチを考えている。 推進方策(1): イタリアの哲学プラクティショナーによる文献調査を継続して行う。その際、とくに、今後のフィールドワーク調査のために、精神保健医療領域における哲学対話実践の〈非治療的〉アプローチと心理療法などによる〈治療的〉アプローチとがどういった関係性として捉えられているのかに照準を絞って比較検討する。いわゆる「哲学対話」が〈セラピー〉としての機能をもちうるものなのか、あるいは単なる〈カウンセリング〉なのか、この点を軸に、昨今のイタリアにおける哲学プラクティスの動向をさらに読み解きたい。注目している文献は、2000年当初から、哲学カウンセリング(哲学対話)の特徴を心理療法などにおける治療的側面とは異なった点に読み解き、まさに非治療的な性格にその存在意義を見出すべきではないかと主張してきたNeri Pollastri(イタリア哲学カウセリング協会Phronesis創設者)による一連の文献(Consulente filosofico cercasi, Il pensiero e la vita)である。 推進方策(2): イタリアの哲学プラクティショナーや精神保健領域の活動家へのインタビュー調査。上記(1)の文献研究では完全にフォローしきれないものも多い。もちろん、そもそも文献を残していないプラクティショナーたちもいる。そこで、そういった点を補うために、オンラインなどでのインタビュー調査も並行して行いたい。すでに、2022年5月に、イタリアの哲学プラクティショナーAlessandro di Graziaと、トリエステ自死遺族の会のOpatti Brunoへのインタビュー調査が決定している。今後は、ヴェネチア大学で哲学プラクティスを教授しているAnnalisa Rossiなどへのインタビューも行いたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により、医療や福祉の現場では通常の診療にくわえてコロナ診療にも対応せざるをえない状況となる。それにともない、研究メンバーの対面でのミーティングの機会だけでなく、本科研の目的の一つでもある、具体的な医療福祉施設やその従事者たちとの対面での哲学的対話実践の機会を設けることが困難となった。そのため、研究代表者および研究分担者(研究協力者)が、それぞれの医療保健福祉領域で開催予定であった哲学的対話実践(哲学カフェ)を中止せざるを得なくなり、当初計上していた予算を活用することができなかった。 文献研究においても、まずは手持ちの文献の研究から随時行っているため、新たな著書購入のための予算は次年度に使用することとした。コロナの感染状況については予測がつかないが、今後は、「次年度使用」となった予算も含めて、当初の研究計画に基づいた経費の適正使用に努めたい。
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