2023 Fiscal Year Research-status Report
Possibilities of philosophical dialogue in mental health and medical welfare by drawing on the efforts in Italy
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21K00028
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
西村 高宏 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (00423161)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近田 真美子 福井医療大学, 保健医療学部, 教授 (00453283)
BALDARI Flavia 東京大学, 東京カレッジ, 特任研究員 (90823435)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 哲学対話 / 臨床哲学 / 哲学プラクティス / 精神保健 / 哲学カフェ / 精神医学 / 哲学相談 / 哲学カウンセリング |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、Filosofia di stradaなどの著書で知られるAugusto Cavadiをはじめ、イタリアで活躍する著名な哲学プラクティショナーや精神科医たちへのインタビュー調査を行い、精神保健医療領域における哲学対話実践の可能性/不可能性に関するさまざまな意見を聴取した。そして、その成果の一部として、研究分担者のFlavia baldariが、上智大学で開催された日本医学哲学・倫理学会第42回大会にて「哲学と精神保健医療福祉 学際的アプローチによる新たな可能性」に関する研究発表を行った。 研究代表者の西村高宏と分担者の近田真美子は、日本精神保健看護学会第33回学術集会・総会にて「チーム医療における哲学対話の可能性」に関するワークショップを開催し、様々な医療従事者とともに精神保健医療福祉の現場における「哲学対話」実装化の具体的な方策について意見交換を行い、多くの成果を得た。 また、それらの成果をもとに、さらに精神医療領域への「哲学対話」導入をより現実的なものとするため、2023年1月に、オープンダイアローグを軸とした対話の試みを医療現場に積極的に取り入れている精神科病院の琵琶湖病院を訪れ、医師や看護師、PSWなどから、具体的で実践的な意見を聴取することを目的に現地視察を行った。 そして最後に、当該年度では、これまでの研究成果について多くの研究者・医療従事者と詳細に検証するため、2024年3月2日に、オンラインにて「精神医療現場における対話文化の可能性 イタリアと日本の現状から」というシンポジウムを開催し、①「哲学対話と精神保健福祉」(Flavia BALDARI )、②「居ることと話すこと」(佐藤慎子 精神科認定看護師)、③「精神保健福祉現場での哲学的対話の可能性」(舘澤謙蔵氏 精神保健福祉士)の三者の発表をもとに積極的な意見交換を行い、今後の研究活動の方向性をより明確なかたちで獲得することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から継続している、イタリアおよび日本国内における精神保健領域の医療従事者、哲学プラクティショナー、家族会などとの研究連携体制をさらに整えることができた。具体的に名前を挙げれば、イタリアの哲学コンサルタントに関する全国組織Phronesisの創設者の一人、Augusto Cavadiとのネットワークを構築できたことは今後の研究活動の展開を考える上で大きな収穫と言える。 国内におけるネットワークとしては、精神科医療に対話(オープンダイアローグ)を積極的に取り入れていることで知られる琵琶湖病院の医師や看護師、ソーシャルワーカーなどとも連携体制を構築するとともに、精神科医療において独自の取り組みを行ってる東京都立松沢病院の精神科認定看師、医療法人稲門会いわくら病院の精神保健福祉士とも連携体制が構築できた。このことは、本科研の最終的な目的である、日本国内の精神保険医療福祉領域での「哲学対話進」の取り組みの具体的な姿を明らかにしていくために必要な極めて重要な成果と言える。 くわえて、上記フィールドワークへの準備作業と並行して、研究分担者および研究協力者個々人で、イタリアの哲学プラクティスや国内外の精神保健医療に関連する詳細な文献研究も継続して行うことができたことなどにより、本科研の進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
推進方策(1):これまでのインタビュー調査や文献研究をとおして、精神保健医療領域における哲学対話実践の〈非治療的〉アプローチの可能性、とくに、「哲学者がクライエントとともに意思決定の問題や実存的問いについて考え、一対一の差し向かいで議論する」哲学カウンセリングとは異なった、当事者、家族、さらには医療専門職者なども含めた複数人の参加者によって行われる哲学対話セッションの可能性について最終的な見解を提示する。このような複数人による哲学対話セッションが精神保健医療福祉領域の現場においてどのような効果を発揮するのか、関連する学会等で発表し、多くの研究者たちとともにその可能性について最終的に議論・確認する場を設けたい。 推進方策(2):イタリアの哲学者や哲学プラクティショナーによる文献の調査を継続して行い、それらが実際にイタリア精神保健医療福祉領域のうちにどのように取り込まれてきたのか、現地の状況を正確に追いながら、さらに検証する。また、イタリアの哲学プラクティショナーや精神保健医療領域における実践家などへのインタビュー調査も引き続き行う。そのうえで、イタリアにおける取り組みと日本国内の精神保健医療福祉領域の現状との比較・検討を批判的に行い、最終的に日本国内における精神保健医療福祉領域のうちにどのようなかたちで哲学的対話実践を挿し込むことができるのか、その具体的な方策や日本型の対話実践モデルを提示したい。 推進方策(3): 琵琶湖病院での視察などをとおして明らかになった、実際に患者や家族などと行う哲学対話実践の際に求められる精神科医や臨床心理士などとの実践的な連携体制のあり方について、さらに現地視察をとおして明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響もほとんど解消されてきたが、研究分担者や協力者の体調不良や家庭の事情などもあり、研究メンバーどうしの対面でのミーティングの機会だけでなく、本科研の目的の一つでもあった、精神保健医療福祉領域の国内外の専門職者・実践家たちとの対面での哲学的対話実践もしくはシンポジウムの機会を設けることがなかなか困難な状況が続いた。そのため、研究代表者および研究分担者(研究協力者)が、それぞれの専門領域に関わる文献調査オンラインでの文献調査を主な活動内容としたことで、当初計上していた予算を活用することができなかった。文献研究においても、まずは手持ちの文献の研究から随時行っているため、新たな著書購入として計上していた予算は次年度に使用することとした。コロナの感染状況は落ち着きつつあるため、今後は、「次年度使用」となった予算も含めて、当初の研究計画に基づいた経費の適正使用に努めたい。
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