2022 Fiscal Year Research-status Report
An inquiry into the philosophical foundations of population ethics
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21K00030
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 真 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (30536488)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 人口倫理 / 福利・厚生 well-being / 価値論 / 規範倫理学と経験科学 / 直観 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、本研究の課題となっている人口倫理についてその基礎となっている福利とその比較・測定に焦点を当てて検討を行った。具体的には、「個人的価値に関する主観説と、「個人間比較」の可能性 」という論文を公刊し、人口倫理の前提となっている福利の個人間の比較可能性を擁護した。福利についての実証研究についても手を伸ばし、鶴見哲也・藤井秀道・馬奈木俊介著『幸福の測定――ウェルビーイングを理解する』(中央経済社、2021年)の書評を公刊した(社会と倫理 ( 37 ) 頁: 121 - 124)。また「福利と倫理:規範的な基準と実践の基礎としての利益と不利益」という講演を行い、自らの福利に関する見解を提示して、専門家を含む聴衆から貴重なフィードバックを得た。人口倫理本体に対する貢献をしようと先行文献を検討していたが、東京大学大学院人文社会系研究科で開講されている多分野交流演習「サステイナビリティと人文知」の一回分の担当を依頼され(2022年6月17日)、多様な聴衆に向けて人口倫理における諸問題と諸理論について話すよう準備する中で、自他の考えを整理することができた。2022年にThe Oxford Handbook of Population Ethicsという画期的なリファレンスが登場して、これまで主として話題になっていた問題(諸々の価値論的パラドックス)に対する検討がさらに進められているだけでなく、人口倫理の諸前提の問い直しや、実際の事例への適用の問題といった比較的新しい話題も扱われていたが、これを読み進めることで自分の見解と議論をさらに洗練するのに役立てることができた。なお、現在の人口倫理の議論では様々な倫理的直観への訴えがなされているが、それについての自らの見解も、倫理的直観と実証研究の関連についてのブックチャプターを執筆する過程で、明確化することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年にThe Oxford Handbook of Population Ethicsという画期的なリファレンスが登場し、今後の人口倫理の研究はこの文献とその参照文献を踏まえずにはできないことになった。そのため、申請者は自らの研究を拙速に提示するよりは、まずはそれらを批判的に読解して自らの見解を再度位置づけなおして鍛え直す方が先決だと判断した。自らの発表や論文の執筆と投稿は、その分計画より遅れることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
人口倫理の基礎である福利の研究をさらに進める。さらに、人口倫理の諸パラドックに対する解決案のある程度詳細なサーベイを行い、それぞれの利点と欠点を明確に示すようにして、その後の研究において自案を展開して擁護する準備とする。
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Causes of Carryover |
本課題を計画した際には、2022年度には国内外で研究発表をしたり学会で関連する知見を集めたりする予定でいたのだが、コロナ禍のため、国内では対面開催の学会が無くなり、海外には渡航するのがはばかられる状況となった。そのため、旅費を予定よりも使用する機会が無くなってしまった。2023年度にはコロナ禍の収束が見込まれる状況になり、国内学会は対面で開催され、海外渡航の障害もなくなってきたので、国内外で研究を発表したり学会で本課題に関連する知見を集めたりすることによって旅費を使用することにしたい。
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