2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00031
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
薄井 尚樹 関西大学, 文学部, 教授 (50707338)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 潜在的態度 / 道徳的責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は(1)研究実施計画に挙げた「潜在的態度のありよう」にかんする研究を推進し、(2)あわせて今後の研究を見据えて「道徳的責任」にかんする予備的な研究もおこなった。以下ではそれぞれについて説明する。 (1)潜在的態度がどのようなありようをしているかという問いは、現代の心の哲学におけるホット・トピックのひとつである。これまでに出版された図書・論文でこの問いを主題とするものを可能なかぎり収集・整理することによって、研究の遂行に必要となる知識をアップデートし、最新の研究動向を調べた。そしてこうした活動から(研究実施計画で言及したように)心が個人を越えて拡張すると論じる外部主義を、本研究課題を進めるさいのひとつの軸にするための準備を整えることができた。このことは、「潜在的態度のありようにかんするこれまでの研究を批判的に吟味する」という研究目的のもとで今後の研究を推進するにあたって大きな役割を果たすだろう。 (2)道徳的責任は、潜在的態度と異なり、哲学における伝統的なトピックであり、その資料の収集・整理のアプローチにかんしては(1)のような網羅的な資料の収集・整理とは異なるかたちを採用した。具体的には、本研究の主題である「本当の自己」と道徳的責任を結びつける帰属主義(ある行為者にある行動の責任があるのは、そのひとの「本当の自己」 がその行動において表現されるときだとする立場)に焦点を絞り、その立場の歴史的経緯および理論的な位置づけを探ることを目的として、資料の収集・整理をおこなった。このことも(1)とおなじように、研究目的に「潜在的態度から生じる行動の道徳的責任」の検討がともなう本研究を展開するための重要な足がかりとなるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、潜在的態度のありようにかんするこれまでの研究を批判的に吟味することを通じて、潜在的態度から生じる行動の道徳的責任を語るのにふさわしい「本当の自己」の考えを提案することにある。それをふまえた2021年度の目標は、潜在的態度のありようについての研究を展開することであり、その目標のもと、先行研究となる資料を収集・整理し、今後の研究の方向性を明確にした。くわえて、2022年度以降の研究を見据えて、道徳的責任にかかわる資料の収集・整理も効率的におこなうことができた。これらのことは、今後の研究を円滑に進めるうえで大いに役に立つと考えられる。それゆえ研究の継続性という点においては、研究の進捗は順調である。 しかしその一方で、本研究の進捗を妨げる事情もあった。まず、2021年度から異動により勤務環境が大きく変わったことにともない、それにアジャストするまで研究スタイルの変更を余儀なくされた。このことは、本研究を遂行するうえでの障害となったことは否めない。また、新型コロナウィルスの感染拡大という予期していなかった出来事により、学会がオンラインで運営されるようになったり、離れた研究者との研究上の綿密なコミュニケーションが困難になったりするなど、本研究にかんするコメントを得る機会が大幅に限定されることになった。これらの理由から、2021年度にかんしては、研究成果のフィードバックを積極的に得るという目標はひとまず延期して、2022年度以降の研究の足場を築くことを優先的な目標とせざるを得なくなった。 以上の事情から、現在までの本研究の進捗状況は「やや遅れている」に該当すると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、2021年度に収集・整理した資料をベースに、以下に挙げるふたつの問いを中心に考察を進める予定である。 (1)潜在的態度という心的状態そのものを、個人をとりまく社会制度・文化・環境といった外部へと拡張することができるか。すなわち、外部主義を潜在的態度に適用することは可能なのか。2021年度からこの問いに取り組んできたが、それを継続するためには、これまでに入手してきた資料に加えて、外部主義をめぐる先行研究の検討を通じた既存の理論的図式の整理が必要となるだろう。さらに潜在的態度にかかわる実験データをサーヴェイし、データがこのような外部主義的な解釈をサポートしうるどうか(あるいはすくなくともデータがそうした解釈と両立可能かどうか)を考察することも求められるだろう。 (2)道徳的責任にかかわる「本当の自己」とはどのようなものなのか。帰属主義において「本当の自己」の実質がどのように捉えられるべきかについては、論者によってその考えかたが異なる。この点にかかわる先行研究については、2021年度にある程度まで収集・整理をおこなった。しかし今後はさらに、(1)で述べたような「外部化された」潜在的態度が「本当の自己」を構成しうるかという論点を視野に入れたうえで、「本当の自己」をどのように捉えるべきかについて独自の考察を進めていきたいと考えている。したがって、帰属主義にまつわる資料の収集・整理を継続しつつ、それらの資料を検討するさいには潜在的態度および外部主義とのつながりを意識することが必要になるだろう。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としてひとつには、新型コロナウィルスの感染拡大によって学会がオンライン形式で開催されたことを挙げることができる。そのように開催校に参加者が集まるかたちで学会が開催されなかったことにより、出張で学会に参加することがなくなり、申請時に見込んでいた旅費の予算を消化することがなかった。さらにもうひとつの理由として、異動により勤務環境が大きく変わり、新しい環境にアジャストするために、研究スタイルがしばらく制約されたことを挙げることができる。そのために2021年度は資料の収集・整理だけに専念するというスタイルをとらざるを得ず、研究費の使途については上記の費用が多くを占めたことから、次年度使用額が生じた。 使用計画としては、通常の研究スタイルに戻ること、また次年度使用額がそれほど高額ではないことから、当初の予定どおり、図書費、(オンライン開催でなければ)学会・研究会に参加するための旅費、プリンタトナーといった消耗品の購入費用などに用いる予定である。
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