2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00034
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大西 克智 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (60733996)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 精神史 / ソクラテス / モンテーニュ / アイデンティティ / 自己意識 / 良心 |
Outline of Annual Research Achievements |
「意識」・「良心」・「自己」を主要な観点とする本研究の初年度(2021年度)は、哲学史と精神史の深層に見出される三つの過程を再構成する作業を中心に研究を遂行した。すなわち、第一に、「汝みずからを知れ」という古代ギリシャの世間知的警句がソクラテスのもとで純粋な自己知の要請に転化する過程、第二に、その後の古代・中世哲学において、転化した要請本来のメッセージが見失われてゆく過程、そして第三に、いったん見失われたメッセージを一六世紀フランスの思想家モンテーニュが再発見するに至る過程、以上三つの連続する過程の実質をより精密に理解するための作業である。この作業の成果は、最終的に、単著『『エセー』読解入門ーモンテーニュと西洋の精神史』(講談社学術文庫、2022年6月)のなかで一般に向けて公開されることになる。あわせて、哲学の歴史というものが、哲学者たちによって著された哲学書には必ずしも明瞭に記録されることのない、人間精神の深層的一般史に規定されているという構造的事実も、同書のなかでは明らかにされている。 本研究との関連は次のようになっている。ソクラテスが説いた「汝みずからを知れ」という命法は人間の良心に訴えかけるものであり、その良心の反応と自己意識の形成が密接不可分な関係にあること、そして、その自己意識が、現代に至って「アイデンティティ」と呼ばれる自己同一性意識に連なってゆく。 以上が、本研究初年度の実績概要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】欄に記した『『エセー』読解入門ーモンテーニュと西洋の精神史』の最終的な完成に予想していた以上の時間がかかってしまったため、研究の初年度に予定していた作業がすこし遅れている。すなわち、中世哲学における「(道徳的)意識」の問題を扱ううえで必須の参考文献(大部な古典的研究)である O. Lottin, Psychologie et Morale aux XIIe et XIIIe siecle を、そこで取り扱われている数多の原典と突き合わせながら精査する作業である。とはいえ、上記著書の完成に要した時間には、Lottin の仕事をより正確に、筋道立てて検討するための地ならしのための時間という意味合いがあるため、本研究は全体としておおむね順調に進展しているものと考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】欄に記した O. Lottin, Psychologie et Morale aux XIIe et XIIIe siecle 並びに関連する中世哲学の諸文献を精査し、その結果を論文にまとめてゆく作業が今後の主要な研究となる。そのさいには、おおよそ一三世紀まで「良心(conscientia)」と並行的に語られる「良知(synderesis)」概念の消長に注目する予定である。あわせて、『『エセー』読解入門ーモンテーニュと西洋の精神史』に寄せられるであろうさまざまな意見(現時点では、今秋に開催される「哲学会大会」(東京大学哲学研究室主催)のワークショップにて本書が取り上げられることが決定している)を消化しつつ、今後の研究に組み込んでゆく意向である。
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Causes of Carryover |
当初必要性を認めていた文献の購入を若干控えたために次年度使用額が生じたが、それらは次年度に購入する予定である。
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Research Products
(1 results)