2021 Fiscal Year Research-status Report
フランクフルト学派における「自然」概念の諸相ー「自然主義」のもう一つの形を求めて
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21K00038
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Research Institution | Morioka College |
Principal Investigator |
齋藤 直樹 盛岡大学, 文学部, 教授 (90513664)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自然主義 / アドルノ / フランクフルト学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、本研究の思想的前提となっているニーチェの「自然主義」をめぐる研究成果を体系的にとりまとめ、フランクフルト学派とりわけアドルノにおける「自然史」をめぐる考察の源流となっている「非合理主義的な自然概念」に関する研究成果を集約し、公刊著作として上梓する準備を進めた。 と同時に、アドルノの最初期のテキストであるDie Idee der Naturgeschichte(『自然史の理念)および、Die Akutualitaet der Philosophie(『哲学のアクチュアリティー』)等を詳細に読解し、彼の言う「自然史」概念の内実、ならびに、それにもとづく自然/歴史の唯物論的な解釈法として考案された「コンステラチオン」の成り立ちを分析することによって、アドルノの「自然主義」の前提をなしている基本的な論理と手法を理論的に明らかにした。 そのうえで、自然支配の開始という「主体性の原史」の内に理性の出自を見定める『啓蒙の弁証法』の議論が前提としている「人間の外的・内的自然」(die ausser- oder innermenschliche Natur)、あるいは、理性の自律を前提としたカントの「自由意志」論を、主体の有機的基体としての「身体的衝動」が備える自発性に着目しつつ脱超越論化しようとする『否定弁証法』の議論が前提としている「欲動的自然」(Triebnatur)や「物理的・心理的自然」(die physische wie psychische Natur)といった種々の「自然」概念の内実を分析することによって、<根源的な所与としての自然>と<科学的に構成された客観的自然>との間にある「自然」概念の多様な位相を包含する、アドルノの「自然主義」の多元的な成り立ちを理論的に明らかにする準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍によって、予定していた研究会の実施や研究者の招聘、および、研究資料の収集を目的とした外部機関への出張が、必ずしも予定通りには実施できなかったため。加えて、本研究の思想的前提となっているニーチェの「自然主義」を主題とした著作公刊の準備に、予定以上に大きく時間をとられたため。
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Strategy for Future Research Activity |
さしあたりは今年度に引き続き、アドルノの「自然主義」をめぐる研究を進展させ、その成果を一定の仕方で集約する。そのうえで、彼に後続する世代の「自然主義」的議な論の体系的な精査に着手する。その際、代表的な議論としてまずは、現代における「自然科学主義」の台頭に対するハーバーマスの批判を詳細に検討する予定である。具体的には、『人間の将来とバイオエシックス』の中心的概念である「人間的自然」、あるいは、『自然主義と宗教の間』に見出される「経験科学的自然」「社会的に構成された自然」「客観的/主観的自然」「逸脱した自然史」「生活史」といった、多様な「自然」概念の内実とその思想的系譜を明らかにしていきたい。 そのうえでさらに、ハーバーマスの理性主義的な「討議理論」を批判し、それを自然主義的な観点から「人間学的に実質化」することを目指すアクセル・ホネットの議論を主題化し、その内実と意義を、例えば『承認をめぐる闘争』における「身体的情動性」をめぐる議論等に注目しながら、本研究独自の「自然主義」的見地から再検討していく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響のため研究出張や研究者の招聘が実施できず、出張旅費および専門的知識の提供に関連する謝金等が、予定通り使用できなかったため。今年度は、コロナ禍の状況が改善し次第、前年度に予定していた出張等を繰り下げ、今年度の予定分と併せて実施することによって、当初の計画に沿った予算の執行となるよう務める。
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