2023 Fiscal Year Research-status Report
ヴァルター・ベンヤミンの歴史哲学と美学についての総合的研究
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21K00043
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
森田 團 同志社大学, 文学部, 教授 (40554449)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ヴァルター・ベンヤミン / ミメーシス / 批評 / ロマン派 / ヘルダーリン |
Outline of Annual Research Achievements |
2023(令和5)年度は、前年度に引き続き、ベンヤミンの言語論、ならびに芸術論を中心にして研究を進めたが、芸術論から歴史哲学への接続もまた研究関心のひとつとした。成果として挙げられるのは、2022(令和4)年12月に行った西日本哲学会の第73回大会シンポジウム「メタファーをめぐる思考:生・言語・超越」にて行った発表「ミメーシスによる身体表現とメタファー:ヴァルター・ベンヤミン「ミメーシスの能力について」の一解釈」と題した発表をもとに、内容を大幅に見直したうえ、同名論文を『西日本哲学年報』(第31号)に公表したことである。 2023(令和5)年度においては、講義を利用し、昨年度に引き続き、前年度の研究主題でもあった『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』(1919)に、さらに批評概念との関連で「ゲーテの『親和力』」(1921‐22)の読解に取り組んだ。さらに来年度の大学院講義の準備を兼ね、『ドイツ悲劇の根源』(1925年脱稿・1928年出版)の序文である「認識批判序説」の読解にも新たに着手することになった。 上記のロマン派論においては、芸術作品の認識が、作品に内在する反省構造(自己関係構造)を展開することであることが示されているが、この自己関係とは、たとえば『親和力』においては、語り手と、語り手が語る主人公の生との関係において見出だすことができ、この関係の展開を試みたのがベンヤミンの親和力論であることが明らかにとなった。この意味で親和力論は、ロマン派の理論の正確な実践である。他方でベンヤミンは、親和力論のなかで、作品を作品として成立させる契機を、ヘルダーリンの悲劇解釈を援用しながら、考察しており、ベンヤミンの批評が、たんにロマン派を引き継ぐだけではなく、容易にその統一見通すことができないかたちで、19世紀初頭の芸術論を受容していることがあらためて再考されることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022(令和4年)度は、ベンヤミンの言語論を中心に、それを基盤にした芸術論を含めての研究を行ったが、2023(令和5)年度においては、それを受け芸術論、ならびに芸術論と歴史哲学との関連の研究に注力した。 概ね研究計画に沿いながら、柔軟に年次計画とされた主題を組み合わせて、今年度も研究を遂行した。今年度の課題である歴史哲学の考察は、「翻訳者の課題」における生の表現と歴史の概念が、合目的性の概念によって媒介されていること、『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』において作品の表現構造が、歴史性を内包し、その展開が批評であることという一昨年度、昨年度の成果を踏まえ、「認識批判序説」の読解から開始した。表現、生、合目的性、批評、歴史などの結びつきに見られるのは、カントの『判断力批判』における有機体の理論が、作品理解に転用されることによって、歴史の概念へと関連づけられていることであり、このことの内的論理を明らかにすることが、『ドイツ悲劇の根源』の序章を読解の指針となった。これらの各主題は、2021(令和3)年度からの2年間の研究計画とその遂行に拠っており、また計画されたが過年度において、充分に進められなかった研究の実行も含んでいる。 このように2023(令和5)年度の研究は、昨年度に引き続き、各年度の主題が有機的に関連づけられるように遂行されており、互いが互いの洞察を促進するように進められることとなった。そのため研究課題がおおむね順調に進展していると評価した次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
2024(令和6年)度は、最終年度となるが、計画どおり、ベンヤミンの歴史哲学に重点を置き研究を遂行する。その際、2021(令和3年)度から2023(令和5)年度にかけての研究成果、ならびに研究を通じて明らかになった新たな課題を踏まえて、本年度の研究にいかしたい。中心となるのは、昨年度に引き続き「認識批判序説」の読解、ならびに「歴史の概念について」(1940)の解釈である。 研究の推進に際しては、全体の研究計画を理論的に緊密に連関させることを意識して、講義を弾力的に利用しながら研究計画を遂行するが、昨年度までの研究遂行において、充分展開されなかった課題を顧慮しながら、研究課題を有機的に展開させることを試みる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、2023(令和5)年度の研究をめぐる支出がほぼ過不足なく遂行されたため、一部予算を翌年度に繰り越して利用することが2024(令和6)年度の研究遂行にとってより適切であったと判断したからである。
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