2021 Fiscal Year Research-status Report
ホネット以降の批判理論の新展開―批判理念の再検討を中心に
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21K00044
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
入谷 秀一 龍谷大学, 文学部, 准教授 (00580656)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アドルノ / 笑い / 反ユダヤ主義 / 真剣さ / からかい / 演技 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、現代ドイツにおける社会哲学の動向、特に21世紀以降のいわゆるフランクフルト学派(=批判理論)の活動を追跡調査することを通して、社会実践としての「批判」が現在直面している状況を明らかにすること、そして特に、J.ハーバーマスやA.ホネット以降の批判理論の新たな世代の取り組みをマッピングし、批判のもつべき規範性を改めて、具体的な形で析出することである。そのための下準備として、一年目は批判理論にまつわる主要なテクスト分析を行うことを主眼としていた。その成果としては、まず第一に世界文学会関西支部の第六回研究会(Zoom会議、2021年7月3日開催)にて「笑うアドルノ――或るカバと猟犬の物語」と題して口頭発表を行ったことが挙げられる。また「笑うアドルノ――〈真剣なからかい〉の両義性を巡って」と題した論文が、社会思想史学会の公募論文として正式に受理され、2022年秋に出版予定の『社会思想史研究』第46号に掲載される予定であることも併せて記しておく。この他1年目の予定としては、カントやフーコーの古典的な著作のほか、批判理論の第三世代の代表者ホネットの最近の著作(Honneth, Die Armut unserer Freiheit, 2020)や、英米圏の批判理論に関するテクスト(E. Allen, The End of Progress, 2016; M. Jay, Reason after Its Eclipse, 2017, etc.)も分析対象にしていたが、これは2022年に出版予定の申請者の単著(タイトル「感動を、演技するーフランクフルト学派の性愛論」、晃洋書房)に組み込む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目の成果としては、口頭発表一本、論文(掲載予定)一本と寂しい印象であるが、水面下では成果は順調に表れつつある。申請者は研究課題の背景として、グローバルな時代において「フランクフルト」という地域名が担う象徴的な意味が急速に色あせつつあるのではないか、そして批判理論における肝心の「批判」の規範的な意味もまた(強引な自己主張ばかりが幅を利かせる現代の社会的状況を背景にして)失われつつあるのではないか、という危機意識を挙げていたが、こうした批判理論自体のメタ・クリティークという課題を扱った単著を、今年度中に出版する予定で原稿を進めている。タイトル、出版社とも決定されており、出版助成については申請者の勤務校における出版助成を得る予定となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目の予定として掲げていたのは、現代の批判理論における反知性主義批判の分析であった。具体的にはそれは、デジタル社会における激しい承認欲求や暴力表現の行方を追跡するSutterluety、情動的関係が商品化される過程を論じるE. Illouz、テクノロジーによる感受性の強化(エンハンスメント)を分析するG.Wagnerらのテクストを指す。彼(女)らが対峙しているのは、抑制のきかない感情の単なる発露ではなく、いわば「知」を装いつつスマート化する暴力、テクノロジーや文化産業に支えられた非合理主義というバラドクスである。こうしたパラドクスを申請者は「媒介なき直接性の幻想」と捉える。それは、メディア・テクノロジーは(承認を含む)感情的な充足をダイレクトに、つまり媒介(メディア)抜きに与えてくれるという幻想であり、こうした幻想の克服に欠かせない契機を申請者は弁証法に見る。社会批判の活性化にはある種の弁証法的発想の復活が不可欠だ、というのが筆者の見通しであり、こうした想定のもと、今後も引き続き、現代の批判理論の動向を追跡調査する(その一部は、今年度中に出版予定の筆者の単著に組み込む予定である)。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、学会開催がオンライン主体になったことに伴う旅費の軽減が主たる原因であるが、対面を中心にした学会運営に戻りつつある傾向も見受けられ、次年度には予定されていた国内活動が遂行できると考えている。
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