2022 Fiscal Year Research-status Report
佐藤一斎と大塩中斎の陽明学理解について―文献学的研究をもとに―
Project/Area Number |
21K00056
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
永冨 青地 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50329116)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 佐藤一斎 / 大塩中斎 / 大塩中斎批注大学 / 薛王二先生教言 / 安岡正篤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はその実施計画において、刊本のみに頼らず、自筆原稿、書入れ、弟子たちが作成した写本、抜粋およびメモに至るまで、両者の残した思想的資料を系統的に調査研究することによって、両者の王陽明思想と文献に対する理解を解明することを目指す、とし、その第一歩として、従来全く注目されることの無かった慶應義塾図書館所蔵の大塩中斎の書入れがしるされた大学の全文の翻刻である、「慶應義塾図書館所蔵大塩中斎批注大学について」(『環日本海研究年報』28号、2023年3月)を発表したが、本稿は江戸期陽明学の研究者より好評を以て受け入れられた。また、本研究の目的において、従来、このような研究がなされてこなかった理由としては、江戸期において、どのような陽明学関係の文献が日本に渡来していたのかに関する研究が不十分であったことを挙げておいたが、この方面に関する調査としては、「『薛王二先生教言』について―併せて同書所収の佚文に及ぶ―」(『陽明学』33号、2023年3月)を上梓しており、江戸期において、このような王守仁(陽明)の佚文を含む書物が日本に渡来していたことを示しておいた。さらに、現代日本において、広く知られている陽明学者である安岡正篤が、三島由紀夫を批判しつつも、一方において同様に反乱を起こした人物である大塩中斎に対しては弁護を行っているという事実を、講演「安岡正篤の陽明学理解について」(2022年度二松學舍大学陽明学センターシンポジウム「近代日本の学術と陽明学」、2022年9月17日)において発表を行い、研究者・一般聴衆の双方より好評を得た。本発表に基づく同盟の論文は『近代日本の学術と陽明学』に掲載が決定し、すでに校了している状況である。以上に示した如く、本研究は総体的には順調に進展しているものと言えるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、実施計画において述べたように、「刊本のみに頼らず、自筆原稿、書入れ、弟子たちが作成した写本、抜粋およびメモに至るまで、両者の残した思想的資料を系統的に調査研究することによって、両者の王陽明思想と文献に対する理解を解明することを目指す」ものであるが、新型コロナウイルスの流行の余波のため、国内の所蔵機関においても閲覧が全面的には再開されていないため、残念ながら一部の調査が計画通りに進行していない。 特に中国・台湾における調査は、同じく実施計画において、「彼らが江戸期において目睹した王陽明の原資料は残念ながら、日本にはほとんど現存していないため、中国・台湾に残された王陽明の資料をもとに、彼らが見た原資料を推定・復元する作業も必要とされる」と述べたように不可欠なものではあるが、同様に新型コロナウイルスの流行の余波のため再開できていない。 以上の理由により、本研究は「おおむね順調に進行している」とするものである。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」において、国内・国外共に、コロナ流行前に比して資料の公開が不十分なために支障をきたしている旨述べてきたが、国内に関しては、五月以降において状況の改善が見込まれるため、資料調査を加速していきたい。中国・台湾についても、状況を見極めつつ、調査を加速していく所存である。
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Causes of Carryover |
「進捗状況」において示した如く、新型コロナウイルス流行のため、日本国内・日本国外での資料収集が一部遅延したため、調査費および資料の収集・複写費が必要とされるためである。
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