2021 Fiscal Year Research-status Report
漢魏六朝期における「人間観」の展開―性三品説を前提として―
Project/Area Number |
21K00057
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
長谷川 隆一 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (40897013)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 性三品説 / 後漢 / 王充 / 寛猛相済 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、性三品説が個々の思想家の「人間観」において有効に機能していたことを前提として行っている。その中で、最初期に性三品説(人間を上智・中人・下愚に区分し、上智の教化により中人は自身の善性を伸長させられるという思想)がみえると思しい王充『論衡』を取り上げ、検討した。それによれば、王充の「人間観」には二つのパターンの性三品説が見て取れた。一つは、現実の君主を聖人と捉え、教化の主体とし、中人は君主の教化に服して自身の善性を伸ばすことができるというパターン。もう一方は、経典学習を通じ孔子を始めとした聖人の教化を受けるというパターン。王充自身は、現実の君主である後漢の三代皇帝たる章帝を崇拝していたため、第一のパターンの性三品説を支持していたと考えられるが、当時広範に存在していた「儒生(儒教を学ぶ者たち)」は、第二のパターンを支持していた。王充『論衡』に見える「人間観」の検討により、本研究の展開における二つの性三品説という指針が、まず確定したといえる。さらに2021年度は、後漢中期以降の「寛猛相済」と宣帝顕彰についても検討した。後漢は儒教が非常に重視された国家であり、儒教の標ぼうする寛治というゆるやかな政治が行われていた。しかしながら現実は残酷なもので、ゆるやかなだけでは統治が立ち行かなくなる。そこで登場するのが、猛政という厳しい政治であった。後漢は寛治を標ぼうしていたが、その中で生きた人間の一部である思想家たちは、寛治を重要だとしつつも、猛政も必要だと自覚し始めていた。寛治と猛政をバランスよく行っていくのが、「寛猛相済」である。ただし、思想家たちは、漫然と「寛猛相済」を唱えていたのではなく、具体的な批判対象を明確にしていた。当時の官吏たちである。それを行うために持ち出された論理が、王覇雑揉を唱えた宣帝の顕彰である。この検討結果により、本研究の現実的な思想背景が、浮き彫りとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、科研費の助成を受けて、一回の学会報告(長谷川隆一「後漢における二人の王氏――性三品説下における「君主=聖人論」・「君主=非聖人論」の典型として―― 」日本儒教学会2021年度大会 2021年5月23日)を行い、二本の論文(長谷川隆一「王充の人間観と頌漢論 ――教化の内容を中心に―― 」『日本儒教学会報』 6号(日本儒教学会) 35-49、2022年1月・長谷川隆一「後漢中期以降における宣帝顕彰と寛猛相済――事例の比較検討を中心に――」『比較文学年誌』(早稲田大学比較文学研究室)58号、33-50、2022年3月)を刊行することができた。学会報告の内容は、本年度本格的に論文化する予定であるが、他二本の論文を公刊したことにより、本研究の基礎を固めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き「人間観」の展開の考究を進めていく。特に対象とするのは、魏六朝期の思想家たちの著作である。具体的には、計画書であげた三国魏の劉邵『人物志』・王弼『老子注』・西晋の傅玄『傅子』を予定している。すでに精読の段階に入っているが、まだ報告や論文の形にできる段階ではないので、引き続き検討を行っていく。 2022年度は中国での学会報告を予定している。ただし現段階ではCOVID-19の影響により、渡航の可否は不確定であるので、状況を観測しつつ、臨機応変に対応していきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、802円の必要な物品がなかったため。2022年度は、申請時の使用計画(書籍購入費・海外学会出張費等)に準じ、適切に処理を行っていく。
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Research Products
(3 results)