2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00060
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柳 幹康 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (10779284)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 『宗鏡録』 / 一心 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は東アジア仏教全体を展望する巨視的な視座の確立を目指し、五代十国の禅僧永明延寿(904-976)の主著『宗鏡録』に焦点を当て、それが中国特有の禅の立場からインド由来の仏教思想をどう読み替えたのかを文献学的に解明するものである。 初年度にあたる令和3年度は当初の計画通り、(1)「一心」に関して『宗鏡録』が先行の文献から引く文言を収集するとともに、その原典の分類と分析を行った。このほか、(2)延寿の有名な故事である「官銭放生」の成立と展開を解明するとともに、(3)東アジアにおける『宗鏡録』の流布とその背景についても分析を加えた。 うち(1)の作業を進めるなかで、延寿が『宗鏡録』において自派の玄沙宗、およびそれと密接な関係にある雪峰系への言及を避けていることに気づき、その状況と理由に対する考察を中国社会文化学会2021年度大会シンポジウム「五代・宋代における仏教の展開と伝播」において口頭で発表した。その内容をまとめた拙論は次年度に公刊される予定である。これにより延寿が、玄沙・雪峰の両系いずれにも拘泥することなく、禅宗ないし仏教全体を平等にみる思想体系を構築したことを示すことができた。 また(2)「官銭放生」説については、東アジア仏教研究会2021年度年次大会で口頭発表するとともに、その内容をまとめた拙論「永明延寿「官銭放生」説の成立と変遷」を『禅学研究』100号に発表することができた。そこでは「官銭放生」説が延寿の没後百年頃に成立し、それが後に脚色され、小説や演劇にまで広まっていったことを論じた。 (3)『宗鏡録』の流布とその背景については、中国・朝鮮・日本の各地において同書が異なる文脈のもと受容されたことを明らかにし、その内容をまとめた拙論「『宗鏡録』の流布とその背景」を『国際禅研究』8号に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた(1)『宗鏡録』の「一心」に関する引用文の出典調査を進めたことに加え、それをもとに当初予期していなかった研究成果、すなわち延寿と玄沙・雪峰両系との関係に対する新たな知見を得ることができた。このほか、(2)延寿の重要な故事として知られる「官銭放生」説が延寿の没後百年頃に成立し、その内容が時代を経るにつれ脚色されていった経緯、および(3)『宗鏡録』が中国・朝鮮・日本において、各地の固有の文脈において受容されていった様子を明らかにすることができた。以上のことから、「当初の計画以上に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
「一心」に関する引用文の出典調査は、『宗鏡録』全100巻の全体にわたり実施しており、概ね完了したといえる。しかしながら、引用元の文献が散佚してしまい引用の範囲が確定できないものが少なからず残されている。この点については、延寿の別の著作に見える類似の文章などと比較することで、更なる分析を加えていく。また次年度は当初の予定通り、上述の引用文の分析をもとに、延寿が『宗鏡録』の核となる「一心」について、従来の文献をどのように用いて独自の理解を構築したのかを解明したい。
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Research Products
(12 results)