2023 Fiscal Year Research-status Report
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21K00060
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柳 幹康 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (10779284)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 『宗鏡録』 / 無住道暁 / 『沙石集』 / 宗教 / religion / 『哲学字彙』 |
Outline of Annual Research Achievements |
三年度目にあたる令和5年度は当初の計画通り『宗鏡録』の「禅による教の読み替え」に対する分析を進めたほか、日本における『宗鏡録』の受容について新たな研究成果を得た。その成果は以下の二つである。 (1)鎌倉期の僧侶無住道暁(1227-1312)は『宗鏡録』を愛読しており、それに着想を得て仏教説話集『沙石集』を編み、そこに和歌陀羅尼説(和歌をインド由来の神聖な語たる陀羅尼と同一視する自説)を記した。無住はこの新説を構築するにあたり、理論的根拠のひとつとして『宗鏡録』の方便観――あらゆる教を等しく禅宗所伝の一心を明かす手立てと見る理解――を援用している。以上の内容は「『沙石集』和歌陀羅尼説とその背景」(『「日本の伝統文化」を問い直す』、臨川書店)として公刊した。 (2)明治期になり「宗教」の語がreligionの訳語として定着すると、その出典として『宗鏡録』が想起された。これは1912年に刊行された『哲学字彙』第三版に見える説であるが、事実とは異なる。実際のところreligionの訳語「宗教」は『宗鏡録』とは関係なしに用いられ出したもので、明治10年代に定着し、同14年『哲学字彙』初版に採録、31年後の第三版になって当時よく知られていた『宗鏡録』の説が典拠として始めて追記されたのであった。なおこれまでの先行研究では『宗鏡録』が中世以降忘却されたと見られていたが、実際には江戸以降もよく読まれており、この見解は修正すべきものである。以上の内容は「『宗鏡録』と「宗教」の語」(『印度学仏教学研究』72-1)として発表した。 この外、『宗鏡録』とは直接関係しないものの、禅宗史上重要な禅僧大慧宗杲(1089-1163)や白隠慧鶴(1686-1769)の研究においても進展を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた「禅による教の読み替え」に対する分析を進めたことに加え、当初予定していなかった研究成果、すなわち(1)『宗鏡録』と『沙石集』和歌陀羅尼説との関係、および(2)religionの訳語「宗教」の出典として明治期に『宗鏡録』が想起されたことについて新たな知見を得ることができた。このことから、「当初の計画以上に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は当初の予定通り、『宗鏡録』が禅宗の観点から従来の律をどう読み替えたのかを分析していく。その際、延寿の戒律観を理解するうえで重要な資料『受菩薩戒法』をとりあげ、その訳注研究も行う予定である。 この作業により、従来は凡夫を律するために設定されていた各種規範が、禅宗所伝の一心と不可分のもの――一心を看取するための手段であると同時に、一心から自発的に発揮される実践徳目――として延寿により読み替えられたことが明らかになるだろう。
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Research Products
(11 results)