2021 Fiscal Year Research-status Report
A Study of the Meditation Thought in Early Buddhist Scriptures
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21K00061
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
細田 典明 佛教大学, 仏教学部, 教授 (00181503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松田 和信 佛教大学, 仏教学部, 教授 (90268128)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 初期仏教 / ウパニシャッド / 禅定思想 / サンスクリット阿含 / 禅観経典 / sattva / 降魔 / アシュヴァゴーシャ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者はウパニシャッドと初期仏典の古層である阿含経の修行論を内容とする『雑阿含』「道品」について、これまでの研究成果を踏まえ、禅定の系譜を辿り、念想・瞑想に関する用例をまとめることを目的とし、2021年度は、sattvaの意義と解釈の変遷をインド哲学と仏教思想の両面から検討した。すなわち、インド哲学におけるsattvaは、サーンキヤ学派の「三要素」の一つとして知られるが、「三要素」の淵源は最古の聖典『リグ・ヴェーダ』から『アタルヴァ・ヴェーダ』の思想的讃歌に遡り、仏教以前の古ウパニシャッドにおけるウッダーラカの教説に説かれる。これらの内容を逐一検討し、サーンキヤ学派の「三要素」におけるsattvaの概念よりも、広く包括的な意義を有し「生命」との関連が深いことを明らかにした。一方、仏教では初期仏教以来、対法者としての「衆生」が一貫して説かれるが、最古の経典『スッタニパータ』での「sattvaの清浄」を説く「正勤経」はブッダの苦行・降魔・成道にいたる仏伝の最初期のもので、以降の仏伝における「sattvaの清浄」の展開とともに、その思想的変遷を明らかにした。その成果について2021年度日本仏教学会学術大会において研究発表を行なった。 さらに、仏伝のについて重要なアシュヴァゴーシャの作品を中心にsattvaの意義内容を考察した。アシュヴァゴーシャはサーンキヤ学派のsattvaの意味も熟知しており、『ブッダチャリタ』・『サウンダラナンダ』におけるsattvaの用例を検討し、仏教における意味とサーンキヤ学派における意味の両義を明らかにし、研究分担者はアシュヴァゴーシャ作『三啓集』に含まれる未発見のサンスクリット阿含の資料の解読を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
説一切有部の伝承するサンスクリット文『雑阿含』を禅観経典との関連性の上で検討するうえで、sattvaが重要な意義を有しており、相互間の関係を解明する大きな手掛かりとなっている。これは従来の研究には知られない新知見であり、阿含の修行論を内容とする『雑阿含』「道品」各支の意議内容が、古層経典である『スッタニパータ』に見られる禅定の系譜を体系的にまとめていく過程を示すものである。さらに、禅観経典から唯識文献に至る念想・瞑想についての思想についても、具体的な内容を解明をする根拠と成りうるものである。すなわち、サンスクリット文『雑阿含』の復元作業において、『修習次第』・『中辺分別論』・『声聞地』・『大乗阿毘達磨雑集論』・『大乗荘厳経論』等における阿含の引用を精査中であり、その中には『雑阿含』「同品」散佚部分に属するものが散見し、従来の研究での未比定・誤解を是正を行なう。 降魔・成道・梵天勧請等の仏伝記事にみられる、精勤・信・智慧等の語は古層経典以来知られるが、これらは禅定に関わる要語であり、『スッタニパータ』の内容が『マハーヴァスツ』や『ラリタヴィスタラ』に改変・増広を伴い収録されている。この伝承の変遷を、阿含・ニカーヤはもとより、大乗経典や仏教文学作品に調査している。特に、アシュヴァゴーシャの作品については、研究分担者がサンスクリット文『三啓集』の対応資料に関する論文を精力的に発表し、禅観経典類との関連も明らかにしている。
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Strategy for Future Research Activity |
【2022年度】最も古い伝承である漢訳単行阿含の対応経との比較から禅観思想の原初形態を抽出する。すなわち、三十七菩提分法として阿含に総括される実践論のいかなる部分が、最も古い伝承で取り上げられているかを突き止める。 【2023年度】修道を説く阿含の様々な比喩に関して、仏伝から仏教説話にいたる題材を有部律の中に精査し、その中からサンスクリット文の現存する仏伝資料を取り上げ、『根本説一切有部毘奈耶』を中心に、サンスクリット文のあるものは、阿含との平行句を回収し、二次資料としてチベット訳は当該箇所を明示する。さらに、説一切有部の律蔵についてさらに調査を行い、サンスクリット阿含について組織的な研究を進めているゲッティンゲン大学とベルリン科学アカデミーを訪問し、阿含・律蔵・禅観経典に関するサンスクリット写本・研究者の情報を調査する。 【2024年度】説一切有部の論蔵について、さらにアビダルマから唯識に至る論書から、特に、説一切有部の阿含を直接引用・解釈する『瑜伽師地論』「摂事分」については『雑阿含』「道品」の部分のチベット語訳を玄奘訳と照合させ、声聞地」について、サンスクリット阿含の部分を明示する。また、前年度のゲッティンゲン大学とベルリン科学アカデミーにおける交流から、研究課題に関係する研究者を招聘し、禅定思想についてのシンポジウムを行う。 【2025年度】サンスクリットの語彙について古ウパニシャッドから初期仏教に至る瞑想・禅定の問題を進展させ、仏教以前に成立した古ウパニシャッドにおける内観によるアートマンの認識を瞑想の問題として捉え、様々な修行法の体系化以前の実際を初期仏教における禅定の問題として考察を進める基礎を確立する。
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Research Products
(6 results)