2021 Fiscal Year Research-status Report
イスラーム諸思想における「グノーシス主義」の比較研究
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21K00067
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菊地 達也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40383385)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鎌田 繁 東京大学, 東洋文化研究所, 名誉教授 (70152840)
柳橋 博之 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70220192)
井上 貴恵 明治大学, 文学部, 専任講師 (70845255)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イスマーイール派 / ドゥルーズ派 / ヌサイル派 / アラウィー派 / グノーシス主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究において研究代表者である菊地は、いくつかの口頭発表、著書などにおいて、イスマーイール派、ドゥルーズ派、ヌサイル派(アラウィー派)といったシーア派分派の初期思想の形成史を辿ることで、それらの思想の「グノーシス的」側面の諸相と「グノーシス的」という表現を適用することの是非について論じることができた。その中でもっとも重要なものは単著『ドゥルーズ派の誕生』であり、本書では、ヌサイル派を含むシーア派内極端派集団におけるいわゆる「グノーシス的」教義と後代に発展したドゥルーズ派の神観、宇宙論、終末論、輪廻論などを分析した上で両者を比較し、シーア派内の秘教主義的な潮流について考察した。これによりドゥルーズ派思想の形成において創始者ハムザ・イブン・アリーが果たした役割がより明確になったものと考えられる。 現代ドゥルーズ派を主題とした英語論文では、20世紀後半にドゥルーズ派の宗派指導部が教義を公開したことの意義、それが平信徒に与えた影響について考察した。その分析によれば、平信徒の著作においては、秘教的で非イスラム的と非難される可能性のある教義はスーフィズムの枠組みなどを援用することでそのイスラム性が強調され、護教的側面とともに平信徒による独自の再解釈が散見される。 また、ヌサイル派を主題とする口頭発表では、これまであまり分析の対象とされてこなかった、ヌサイル派の祖ハスィービーの神学書『ラーストバーシュ書簡』を考察の対象とし、それ以前の極端派思想、および後代のヌサイル派思想との異同を明らかにし、今後の初期ヌサイル派思想研究に関する1つの方向性を示した。その研究成果は2022年度に雑誌論文として掲載される予定である。 研究分担者もそれぞれの専門領域に基づいて本研究プロジェクトと関わりのある研究をおこない、鎌田と井上はスーフィズムについて、柳橋は伝承学について成果を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は本研究の3年目に刊行する予定であった単著を最初の年度に刊行できたことは予想以上の成果であった。口頭発表などの研究成果も比較的多く、こちらも予想以上であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今のところ研究は非常に順調に進展しているので、このままの調子で進めていきたい。状況が許せば、シーア派内の他の諸思想や神秘主義にまで研究対象を広げてく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍のため海外や国内への出張ができず、海外で出版された著作の収集も十分にはできなかったため次年度使用額が発生したが、次年度には事態が好転すると予測されるため、出張や著作の購入に有効活用したい。
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Research Products
(9 results)